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「買う」から「自分たちでつくる」へ。 宿泊拠点をみずから建てた話
2024年の4月から5月にかけて、僕らは宿泊拠点を新築した。
自分たちの手で。
それは賞味31日の、濃厚で、しかし、あっという間の出来事だった。
40人以上の人がこの拠点づくりに参加してくれた。
当たり前だけれど、みんな建物を自分の手で建てた経験なんて無い。
それでも、参加してくれた人がみんな作業に没頭し、何度も足を運んでくれる人も居て、つくることの楽しさ・達成感・人と人との繋がりを肌で感じた30日間だった。
なぜ僕らが自分たちの手でこの建物を建てたのか、自分たちの手で建てることで何が起きたのかを、書き留めておこうと思う。
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家は買うもの、つくってもらうもの。 当たり前に思っていた価値観
おそらく、僕は世の中一般のなかでも家や住まいが好きな部類なのだと思う。
仕事でも、新築マンション開発、中古リノベマンション流通、デジタルファブリケーション技術を用いた建築分野と、住まいや暮らしに関わる領域を歩んできているし、プライベートでも、中古マンションを購入してリノベしたり、注文住宅を購入してきた。
それでも、僕は当たり前に、家は買うもの。職人さんにつくってもらうもの。と思っていた。
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それは、1人の消費者としてはごく自然な感覚なのだろうが、同時に、危うさを感じたこともある。
注文住宅を購入した数カ月後、強風の日にテラスドアが風に煽られて勢いよく外に開いてしまった。 その衝撃で何かのパーツが歪んだのか、建付けが悪くなってしまい、鍵が上手く掛からない。
どうやって直せば良いのか知るために、工務店に連絡したところ、「職人を明日行かせます!」とのこと。
それはそれで有り難いのだが、窓1つ自分の手で直せないことに、無力感のような、何も出来ない危うさのようなものを感じたのも事実だった。
僕らは消費することに慣れていき、自分たちの手で創り出す、という機会が少なっているように思う。
なぜなら、自分の手でつくることが、どんどん非合理的になっているから。
「買ったほうが安い」
「買ったほうがきれい」
「買ったほうがラク」
こうして、僕らは、購入することに慣れていき、気に入らなくなったり壊れたら処分して、また新しいものを買うという、消費を繰り返している。
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家は自分でつくれる
話は一度、僕の仕事の話に逸れる。
2023年10月に、VUILD株式会社に縁あって転職をした。
そこで、任せられたのは「NESTING(ネスティング)」というサービスの事業責任者。 ちょうど、第一号の建築を行う方が香川県の直島町で決まったところだった。
NESTINGは、デジタルファブリケーション(デジファブ)技術を用いて、誰でも簡単に「みずから建てられる」ようにした家・拠点づくりのサービス。
オンライン上でパズルをつくるように設計した内容に沿って、コンピューター制御された木材加工機械が材料を掘削。工場でキット化したものが現場に届くので、あとはクレーンなどの重機や難しい機械を使うことなく、大きなプラモデル感覚でDIY素人たちでも家が作れる、というものだ。
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建設は10月から12月に掛けて行われ、僕自身も何度か現地に足を運んだ。
そこで繰り広げられた光景は、これまでの建築現場と比べれば、異様な光景だったのだと思う。
現場の半数以上が女性。 インパクト(ネジを締めるための電動工具)を持ったことも無い人もいる。 お昼にみんなでピザを食べ、3時のおやつには島内にある美味しいアイスクリームを食べて体力回復。
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建て方工事、断熱材の充填、床貼り、壁の塗装、デッキの施工.. お施主さんは毎週現場に通い、どんどんスキルを高めていく。 なんて楽しそうに、生き生きとしているのだろうか。
そして出来上がった建物は、とても素人たちの手によって建てられたとは思えない完成度だった。
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「つくることの楽しさ・喜び」を目の当たりにし、また、前述のように、「消費者であり続けることの危うさ」を覚えていた僕は、気づけば2棟目の施主に手を挙げていた。
つくる、繋がる、広がる
僕は現在、栃木県の那須塩原市に住んでいる。
2021年の秋に、家族で東京から那須へ移住した。 移住して数年経ち、生活にも慣れたどころか、この地に移住を決めて心底満足していた僕らは、この魅力をもっと多くの人に伝えたい、とすら思っていた。
そんな中で、このNESTINGである。
東京の友人、地域の移住の先輩方、市の職員の方まで巻き込んで、那須での暮らしを味わえるような宿泊拠点を自分たちの手で建てよう、とNESTINGする目的がすぐに決まったのだった。
建築に掛かった期間は正味31日間。キット化されたパーツを組み立てていく作業や、塗装作業などをチームに分けて行っていく。現場でのファシリテーションや監理を行う「施工支援」もNESTINGサービスに含まれているので、混乱なく現場が進んでいく。
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序盤の断熱・気密くらいまでは、人数が多いほど作業も捗る。 建物の柱や梁
を組み上げる工程は、15人弱が集まってくれたため、2日間で終わらせることができた。屋根を貼るところまで含めても7日で完了。これで建物が雨に濡れても大丈夫な状態となった。
一番時間がかかるのは内装工程。 室内の仕上げになる内容なので、作業に気も使うし、出来る作業が限られるので人数が多ければ良いわけでも無い。4,5人で着実に仕上げていった。
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休憩時間のコミュニケーションを通じてチーム感も醸成された。
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延べ40人以上の方々が携わってくれたのには、正直自分でも驚いた。
小学生の息子もしっかりと力になってくれたし、
建築キットの運送をしてくれたトラックの運転手さんも面白がって参加してくれた。
自分たちの手で家を建てる、というコンセプトに興味を持って、新潟から4回(!)も足を運んでくれた方も居た。
直島でNESTINGをしてくれたお施主さんも、ご友人と一緒につくりに来てくれた。
沢山の人と一緒に、1つのゴールに向かってつくりあげていくプロセスはまるで文化祭準備のような高揚感とともに、あっという間に過ぎ去っていった。
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欲しいものを買って手に入れる、プロにつくってもらう、 良いものを手軽に手に入れられる、便利で効率的な世の中からすると、「自分たちの手でつくる」のは、真逆を進んでいるのかもしれない。
しかし、つくってみればこそ感じられることもある。
根源的な面白さ、達成感だけでなく、自分の生き方・暮らしを主体的に開拓しているような感覚がまさにそれだ。
工事が終わって数週間が経つが、参加者たちと話をしていたら興味深い話題が次々と飛び出してくる。
「家つくった後だと、何でも自分で作れそうな気になるよね」
「家の壁紙も自分で張り替えてみたんだよ」
「山の土地を買おうと思っていて。 NESTINGで村づくりみたいなことしたいと思ったんだ」
NESTING以前と、以後とで、欲しいものを手にいれる手法が、「買う・頼む」から「つくる」に変化しているのを感じた話題であったし、ここに集った繋がりの中で、つくることの魅力が伝播し、つくり手が広がっていく兆しも感じた。
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家づくりを続けられることが楽しみにすらなっている。
誰かにつくってもらうのと比べれば、手間もかかるし、体力も必要だろう。
それでも、テクノロジーの進化によって、誰でも自分たちの力で欲しい居場所を作れる時代が現実のものになっている。
丸ノコを触ったことも無いような僕でも、この場所を建てられたように。
「買う」から「つくる」へ。
欲しい居場所を自分たちの手でつくっている光景が、もしかしたら今後、当たり前になっているのかもしれない。
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内覧会のお知らせ
「自分たちの手でつくる家や拠点」のサービス、NESTINGに興味がある方を対象に、6/29(土)、7/13(土)、7/14(日)の3日間で内覧会を開催します。
・コミュニティ形成を伴うむらづくりをしたい
・空き地に離れをつくりたい
・大工でなくてもつくれる家・拠点づくりを自分たちのビジネスにしたい
などの関心がお有りの方に良いと思います。
事前予約制とさせていただきますので、こちらのフォームより、お申し込みをお願いします。
(※ 平日ご希望の方もフォームからご相談ください)
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