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【読書感想】同世代のリアルー松田青子著『男の子になりたかった女の子になりたかった女の子』を読んで

松田青子著 中央公論新社 2021年出版

 出版されている松田青子の本を全部読んでみようと思って借りてきた。

 前回は『おばちゃんたちのいるところ』という本の読書感想で、「小説の現代性」というタイトルをつけて書いたけど、今回この本を読んで、「同世代」という言葉が思いついた。松田青子さんの作品は、女性の就職活動や仕事の様子の描写してるとこはとてもリアルだと思う。私の就職活動体験につながる。TOEICの点数を気にしたり(『英子の森』)、英語を使用すると募集要項にあっても、実際全然関係ない仕事だったり。この本に収録されている「クレペリン検査はクレペリン検査の夢を見る」という短篇も、よく就職活動で適性検査を受けるにあたって、こういうテスト受けたことあるな、と思ったし、それ受けてる自分は結構マジになってやってみたりしたことあるな、とも思ったし、今更こんなテスト受けるなんて、と思ったし、結局得ることができた仕事はなんでもない仕事だったり。とにかく松田青子の女性の仕事にまつわる小説は本当に共感できる。

 津村記久子の小説も派遣の仕事をしてる女性が主役でなんでもない話が淡々と語られていく作品だが、松田青子の作品の方が私の身に迫ってくる。なんでもない話なんだが、そこに幸福は読み取れないし、でも、なんでもないことに夢中になってしまう自分に嫌気というか、もういい加減、この就活はなんなんだ、と思ったり、そんな気持ちがとても反映されていて、読んでいて、そうそう、と思ってしまう。どうしようもない就活に女性の日常がある。「誰のものでもない帽子」という短篇も、子どもがいる女性の他愛もない子どもへの愛情が描かれていてよい。男性抜きでたくましく生きる女性の姿に魅せられる。女性の話は、男ありきの話ではない、ということが痛切に感じる。

 フェミニスム的な視点で語られているのかもしれないけど、私はあまり松田青子の小説をフェミニスム小説だとは思わない。私はむしろ、自分という女性を語っているんだと思う。ある女の生き方が書かれている。表題になっている「男の子になりたかった女の子になりたかった女の子」という作品も、一瞬何言ってるのかわかんないタイトルだが、「男の子になりたかった女の子」になりたかった少女時代ってことで、そういうの私もあったな、と思ったし、読んでるうちにこのタイトルの意味が分かってきてとても面白い作品だと思った。

 とにかくなによりも、私の就活体験を人に語ろうと思ったら、松田青子の小説を読んでみて、と言ったら一番分かりやすいと思う。


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