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気持ち悪いんだけど続きが気になるーー小川洋子著『完璧な病室』を読んで

小川洋子著 中公文庫 2023年出版

 小川洋子の短編集。小川洋子の小説にハマって、いろいろ読んでいる最中だった時、この本に出会ったんだが、なんだが、この本、最強に気持ち悪かった。なんだ、この小説は。

 最初の短編「完璧な病室」は、病気の弟を姉がお見舞いに行ってて、そこの病院のお医者さんと不思議な関係になるのだが、エロスというか性的な話をこんなに気持ち悪くかけるかね、と思った。この「気持ち悪い」というのは、グロテスク、という意味ではない。村上龍的なすげーぶっとんでる気持ちの悪い表現が連なるとかそういうことではない。

 病室の生活感のない清潔さと、自分の母親が精神的におかしくなって、家が乱れたことの思い出と、その時のことを、胎児のホルマリン漬けを食卓の上にのっけているようなものだ、といった表現とか、手術の見学した時に、卵巣にできたチョコレート嚢胞がビーフシチューにリンクするとことか、結局食べ物、有機体は腐敗して腐っていく、そういうものを体に取り入れることを拒否したくなる気持ちとか、かといって、担当医の胸板の筋肉に水が滴るイメージに取りつかれ、結局裸になったその医者に病院の清潔なベッドの上で抱いてもらって泣き続けるとか。とにかく気持ち悪い。食事と性欲とがリンクせず、清潔で生活感のない空間が、恋愛し始めた時の感覚に似てる、と思って、弟をただ愛してるというとことか。今まで小川洋子の小説、どことなく不気味な雰囲気が漂ってるな、と思ったけど、なんか、この小説を読んで、それがこの彼女独特のエロスのあり方とリンクして、今まで感じていた不気味さが、理解できるような気がした。彼女のエロスの感覚が私には受け入れられないというか、今までにない感覚を覚えさせる。

 「揚羽蝶が壊れるとき」という短篇も、痴ほうになった祖母を施設に預ける孫の話なのだが、すごく不気味な老人の表現だと思ったし、ほかの短編も、赤ちゃんの肉肉しい足にエロスを感じたり、その赤ちゃんを虐待して泣かせることに快感を感じたり、同級生の夫婦と仲良くなって、同級生の男の子と不倫関係になるんじゃないか、と読んでる側としては思うんだけど、そうじゃなくて、その夫婦二人のことが、好きだという主人公の女性の気持ちとか、なんか、理解できないというか、私が身近に感じる感情の動きとは全く違くて、気持ち悪いんだが、その気持ち悪さに読むのをやめられない、という感じになった。

 私が中学生のころから愛読していた山田詠美の作品は、もう一人の自分を探しているような読書体験だったとしたら、30過ぎてから出会った小川洋子という作家が書く作品は、まるで自分とは別人の他者を探しているような読書体験だと思った。

 ていうか、小川洋子のこういう不気味な感じを、最強に気持ち悪い、と感じるのも私という人間だからこそなんだろな、とは思う。この自分に生じた違和感をもっと言葉にして表現できるように挑戦していきたいと思う。


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