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幸せというものは比較できないことーー武田砂鉄著『父ではありませんが 第三者として考える』

武田砂鉄著 集英社 2023年出版

 武田砂鉄さんは、ずっと昔に朝日新聞で見かけてから、同い年の人でなんかいい感じの人だな、と目をつけていて、ずっとその活躍を見守っていた。本も出版されていると知ってはいたが、読む機会がなかった。今年この本が出版されてるのを本屋で発見して、読んでみたいと思って購入した。

 読んでてちょっと堂々巡りのような、ぐるぐるした感じがする文章だったが、そのだるい感じがいいな、と思った。この本読んでて思ったのが、私がずっと武田砂鉄さんに対して思っていた通りの印象だったので良かった、と思った。

 彼と同い年1982年生まれの今年41歳の未婚、独身の女性の私としては、結婚していて子供がいない彼とは別のもんもんとした気持ちを背負っているのは当然のことだが、読み始めは、やはり、男性の方が、なぜか子どもいる、いない、を女性より社会的に問われない身分であるのだな、と実感せざるおえなかった。もちろん、彼は、結婚していて、子どもはまだなのか、だの、子どもと交流してると、良いお父さんになるよ、とか言われたりするのに、なんだかなーと思っているみたいだけど、明らかに女性とは違うよな、と思った。「良いお父さんになるよ」と「良いお母さんになるよ」は明らかに、後者の方がものすごいジェンダー的な問題をはらんでいる。と、女性の私は思ったが、武田さんはそういうことも視野に入れてある。でも、男性の自分としては、ということを書くのがこの本の主旨だから、それを一貫する姿勢が感じられて、この本よいな、と思った。こういう本が出版されただけも画期的だとは思う。

 最後まで読んでたら、結局、簡単な結論になってしまうんだが、幸せというものは比較できないこと、ということが大切だということに思い当たった。それ、ってすごく当たり前のことなんだけど、人って、自分が生きている環境や境遇が、当たり前と感じていて、それ以外のことになると、途端にしつれいな発言したり、とんでもないこと言ったりする。そういうのマイノリティを生きている私としてはうんざりする。武田砂鉄のこの本は、「一般的な人、標準とされている人、が、ふつーのこと、と思っていること」を違う人生歩んでいる他人に言うなよ、そんなの余計なお世話だぜ、といっているような本だった。なんで、人って、こんなに盲目になれるのか、結婚して、子どもいて、という当たり前とされている人生を歩んでいっている人たちと話していてたまに思う。

 それでも、武田砂鉄が友達の娘の5歳児と一緒に食事した時の話などは、ほほえましかった。変な大人だなーと他人事ながら思った。それも、「いいパパになるね」ということではなく、自分が常日ごろいろんな人とコミュニケーションしてきた成果でこの人はこういうことしたらいいんじゃないかと思って接した結果だという。それはなんか強引なんじゃないかな、と思ったが、子どもがいない私としては、大人が子どもを子ども扱いしている光景に会うとすごく嫌悪感を感じるときがある。でも、子どもがいる大人はそんな私の子どもとの接し方をみると、まるで大人と接しているようで、親が口を出したくなるらしい。お前にきいてねーよ、と私は思っているんだが、そんなこともよくあったなーと考えてしまった。武田砂鉄が子どもとの接し方がうまいんじゃなくて、コミュニケーションの結果、といわれると、私は経験不足なのかなーとも思った。

 この本はほんとに読んでよかったと思った。
今度、ラジオも聞いてみようと思っている。私は、ピーター・バラカンさん番組のリスナーなので、最近、砂鉄さんの番組の話を聞くようになったのであった。


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