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言葉は戦争より先に立つーー『武器ではなく命の水をおくりたい中村哲医師の生き方』を読んで

 宮田律著 平凡社 2021年出版

 図書館で子供が読む本で、なにか伝記を読んでみようと思って本棚を観てたら、この本が目に入ったので読んでみた。

 中村哲さんってすごい人だと、亡くなったニュースを聞いて私は知ったのだが、福岡に住んでいる知人が中村さんの送る会に献花しにいったという話をきいて、同い年の人でも彼がどんな活動をしているのか知っているのか、と思った。きっと素敵な人なんだろうな、と思って、この本を手にした。

 中村さんは始め、医者としてなにか役に立てないだろうか、と思ってアフガニスタンにいったそうだが、人々が病気にならないように、まともな生活を送ることができるようにと考えて、井戸を掘り、水の環境を整えることをしたそうだ。私はその発想に、とても感銘を受けた。きっと、治療しても直しきれない患者にどうすればいいんだろう、と思った先が、命の水をおくりたい、という考えだったのだろう。とても素敵な考え方だが、同時に、そんなにアフガニスタンは大変なところだったんだ、とうかがえる。たぶん、衛生を保つためにまず必要なのは、水なんだろうとおもった。

 この本に、中村哲さんは、「アフガニスタンの伝統を尊重しながら、現地の人に溶け込んで支援をしていくという姿勢、欧米の人にはまねできない」と書いてあったが、それはその通りだな、と思った。こういう人、海外にはいない。ノーベル平和賞とかそういう国際的に名誉をとることが重要とされているのが海外だとしたら、こういう中村哲さんみたいな人は、名誉とか地位をとることを目的としているのではなく、とりあえずやってみよう、と思ってアフガニスタンに行ってみたんだと思う。そのまま、現地の人に称えられるというのが、彼のすごいところだ。

 日本以外の欧米の人は、わりかし、若いときに、発展途上国に旅しに行って、こんな世界もあるんだ、という体験をしている人が多い。私も、高校卒業したとき、ヨーロッパに三か月旅しにいったが、そこで受けた衝撃はでかい。それは、あこがれも混じる先進国だったけど、旅先であう、外国人が、モロッコいっただの、中東いっただの、聴くと、すごいな、と思っていた。中村さんほど、長い間、現地に住んで、現地の人と共に井戸を作っていたことは本当にすごいことだと思う。外国の人だと、自分の国に帰ってでかい企業を作ろうとか、大きなやり方でそういう世界を変えられたらいいな、と思うのかもしれないけど、自分の人生捧げてまで、アフガンの人とやっていこうと決めた中村さんはやはり、偉大だと思う。

 私はこの本を読んで、中村さんみたいな人って、日本以外の国の人ではいないのかな、ということを考えたけど、なんかそこらへんに疑問を感じた。でも読んでたら、彼は、キリスト教だった、という話をきいて、それもなんだか納得できたが、なぜか、彼に日本らしさのようなものを感じる。日本人がキリスト教で、日本人なりの解釈で慈愛の精神を解釈して行動に移して生きてみたらこうなった、のような。

 この本で取り上げられたアフガンの詩の話も面白かった。ブラッド・ピットの右腕、アフガニスタンのバルフ出身の詩人ルーミーの詩「正しさと誤りの概念を超えたところに野原がある。そこで君と会うだろう」という一節がタトゥーとして彫られている。という話も、なんで、この著者、こんなこと知っているんだろう、と思ったけど、ブラッド・ピットさんもすごいな、と思った。

 やはり、言葉というものは、戦争とか争いごとに、先立つ、と私は思う。


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