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【読書感想】ずっと好きだよ内田百閒ー『小川洋子と読む内田百閒アンソロジー』を読んで

内田百閒著 小川洋子編 ちくま文庫 2020年出版

 私が内田百閒に興味を抱いたのは、高校の頃山田詠美の読書エッセイを読んでからだ。その後、彼のエッセイや小説を読みだして、百閒は、私のお気に入りの作家になった。そんなわけで、今回、よく読む小説家小川洋子が内田百閒のアンソロジーを出版していたことを知り、そりゃぜひと思い図書館で借りて読んだ。

 内田百閒の短編小説とエッセイが混合にのせてるアンソロジー。ひとつずつ終わりに小川洋子が簡単にコメントしている。小川洋子の簡潔なコメントがよい。ただ編纂しただけのアンソロジーじゃなくて、コメントが載ってる分だけ、小川洋子とそうだよね、そうだね、と語り合いながら内田百閒の作品を読める感じがする。

 私が気に入ったのは、盲人の琴弾の話で、盲人が物が見えないのに、人の様子とかを捉える描写が良いな、と思った。また、雨や天気、自然の様子なども描写が美しい。内田百閒は琴奏者宮城道雄と友達だったというか、直接教わっていたらしいから、この琴弾の話がよりリアルに書けるのかもしれない。

 編者あとがきに小川洋子が内田百閒の生涯をざっくり書いているんだが、ほんとに変な人だったんだな、と思った。列車の旅が好きだったこと、小鳥を飼っていたこと、など、とても微笑ましいばかりである。私が、そんな内田百閒の性格を知ったのは『ヒャッケンマワリ』というコミックを読んでからだ。このコミックはおすすめ。

 小川洋子も言っていたが、どこか能天気で無邪気なとこがあって、それがとても読んでいて温かい気持ちにさせる。「ユーモアと恐怖、悲壮と能天気、不機嫌と無邪気、幻想と現実。そうした相反するもの同士が矛盾なく一つに溶け合い、思いも寄らない局面を見せてくれる。」編者あとがきp. 284  ただの能天気ではなく、純粋なのかも。幻想的ではなく、現実なのかもしれない、と思ったりする内田百閒の世界は小説としてやはり最高傑作だろうと思う。エッセイも、どこか私小説めいていて、私の話なんだが、そういう少年がいたんだな、と遠い昔に思いを馳せる。その子供時代のことで記憶にあることは、どこか儚くてもろくて壊れそうなくらい繊細なことなんだけど、あっけらかんと大人になった百閒が書いていて、今現在百閒を読む人たちにそういう子ども時代って誰にもあるよね、と語りかけんばかりである。

 好きだなー、内田百閒。


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