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【読書感想】母の若いころーー犬養道子著『幸福のリアリズム』を読んで

 犬養道子 中公文庫 1984年出版

 私の母は、若いころ犬養道子のエッセイにはまっていたらしい。私が高校生の頃、アメリカに留学するとき、犬養道子のエッセイを集めた総集編を一冊プレゼントしてくれた。私は高校生の時は読まなかったが、しばらくして、ある時手に取ったら、とてもおもしろいエッセイで、私もハマった。

 犬養道子のエッセイは書いてあることが面白い、というよりも、文章自体が硬筆でその文体に魅せられて読んでいるような気がする。女性作家のエッセイは結構読んでみたが、彼女の文章は一番硬筆。硬筆って表現がこの世に存在するのかどうか知らないが、とにかく、固い。表現に一切の無駄がなく、比較的に漢字を使った言葉も多い。読んでいて、気持ちよい。

 だけど、犬養道子の名を母以外の人から聞いたことは今まで一度もない。「犬養」という名字が珍しいから、彼女の祖父が政治家の犬養さんだったということを知って、おお、と思ったが、そのくらいで、他は今まで何も接点がない。女性で、こういう文章のエッセイを書ける人ってあまりいないと思うから、ぜひ若い人にも読んでもらいたい。

 このエッセイは、なんとなく「幸福」について書いてあるんだが、なぜか読み応えが、自己啓発書みたいなところがあって、読んでいて、こういう人になろう、とか、こういう考えをする人になろうとか、私の中に眠っていた意欲がもりもりとわいてきた。最後の方でキリスト教についてちょっと述べられているが、犬養さんはキリスト教徒だった。そういうところが、芯がしっかりした文体でかけるってことなのかな、と思ったりもするけど、それはたまたまこの本のエッセイが幸福についてテーマだからそう思ったのかもしれない。

 若いころ、アメリカに留学したとたんに結核になって、3年間も療養生活を送ったことは、彼女の中で大きな糧になっている。他のエッセイでもこのことを読んだが、このエッセイにも、入院していた当時に出会ったアメリカ人の知り合いなどの話が書かれていて読んでて刺激的だった。

 去年ぐらいから母が好きだった本を良く手にして自分が読むようにしているのだが、私の母が影響された本について本人と語り合うのも限られた時間になってきている。今年も、なるべく、父と母が所有する本を優先的に読んでいこうと思う。


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