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【読書感想】生涯を全うした学者ー朝井まかて著『ボタニカ』を読んで

朝井まかて著 祥伝社 2022年出版

 発売してからよくいろんな媒体の書評で取り上げられていたので、面白そうだと思って読んでみた。

 牧野富太郎の生涯を小説にしたもの。

 小学校中退から研究者になられた方で、ここまで植物に対して情熱があるんだったら、当然だとは思うが、帝国大学といろいろ確執が生じ、追い出されたり、引き戻されたりを繰り返す。最終的には論文を提出して学位をもらうんだが、それまでの長い道のりが本当に苦労した過程が分かり読んでて、やはりアカデミスムってずっとクソなんだな、と私は思った。学者はいつの時代も、どんなとこでも、権威主義的。そこで、牧野富太郎が植物に対する情熱だけで、アカデミスムに対しそんなことでは学問の道は開けないと言い張って生きていく姿はとても勇ましい。この大学との駆け引きは、この小説で一番ワクワクして読んだ。借金を抱えて苦労はするが、助けてくれる人にも出会ったり、なによりも、よい前妻と妻に出会った。私の母はこの小説を読んで、前妻の従妹の存在が最後に胸に残ったと言っていたが、その気持ちは分かる。

 南方熊楠とは結局出会わなかったのね、ということはちょっと惜しかったね、もし出会ってたらなんか歴史が変わってたかも、と思うだが、会わないなら会わないで同時代を生きた人としてうわさはお互い聴いてて気になる存在で、なんだかそういう関係もおもしろいな、と思った。

 時代ではあるが、牧野富太郎のような研究者はすてきだと思う。写真に撮られるのが好きで、写真を写されるとなると笑顔を作る、という描写もかわいらしいなと思えるし、とても好感がもてる人物である。ここまで生涯に渡って実地調査をして植物の採集をして、研究に没頭する人生なんて、私が彼の娘だったら、お父さんの人生最高だったね、と死んだら拍手を送ってあげたい。こんな生き方私もしてみたい。

 朝井まかてさんの語りもとてもうまい。文章だけで、当時の雰囲気が伝わるって実はすごいことなんじゃないか、とあんまり時代小説読まない私としては思った。子どもの頃の描写など、当時の服装などが会話からわかる。東京でしばらく暮らしていてから、ときどき出る土佐弁など、会話もとても生き生きとしてる。

 私が牧野富太郎を知ったのは、『ドミトリーともきんす』というコミックである。中学校から文系の私が科学者たちのことを知るにはよいコミックであった。このコミックもおすすめ。


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