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【読書感想】イギリスから日本を考えるーブレイディみかこ著『オンガクハ、セイジデアル』を読んで

ブレイディみかこ著 ちくま文庫 2022年出版

 新聞の文庫の新刊書評に載っていたので購入した。ブレイディみかこさんは、朝日新聞に連載されている記事も良いし、『ぼくはイエローで~』も2巻ともおもしろかったので、期待した。

 タイトルの通り、イギリスの政治と音楽が結び付けられて論じられているエッセイ。ブログに載せた記事も多い。新聞の記事とは違ってとてもラフで言葉が直に伝わってくる感じ。2013年書かれた記事もあって、ちょっと古い感じはしたが、イギリスの現状を知るにはとても良い本。

 ところどころ出てくるミュージシャンの名前が分からなくて、もどかしい感じにもなったが、イギリスって若者だけに関わらず年配の人も、ロック、パンク聴いてて、アナーキーな生活している人がいるようだ。生活に苦しむ人たちでも、政治について関心があり、日本で耳にする無味乾燥なイギリスの政治状況ではなく、イギリスに住む人の生の声が綴られている。

 成人向け算数教室をしているおじさんの話はとても心を打った。
「アウトサイドから底辺民を支えているインテリゲンチャたちが(本当に)いるということ。いつ見ても同じTシャツを着ているほど貧乏でも、自らの信念のために自らの頭脳を用い、生き生きと働いている激烈にアカデミックなおっさんが(本当に)いるということ。英国の奥深さはまさにこの辺にある。」p. 89 
私も自分の持てる知識をこういったことに使いたいと思った。他にもイギリスのよさは随所に書かれている。バスに乗ったら、次回の選挙の候補者の話になり、あっちこっちで知らない人同士で会話になったことなど、日本では考えられないほど、イギリスの人たちの問題意識というのは常に日常とつながっている。

 一方で、シングルマザーに優しい福祉制度を確立したせいで、無職者でも子供がいれば生活保護を受けられ、家が当てがわれるので、下層社会の女子には、就職しないで代わりに子どもを生んで生活保護受給者になるというチョイスが存在したという話も衝撃を受けた。日本ももっとシングルに優しい福祉制度を、と思うが、女性がこんな状態で良いわけがない。女性にとって子どもを産むということがなんなのか、考え込まざるを得ない話だった。

 ブレイディさんの文章はとても生き生きとしてて、イギリスに住んでる知り合いの人みたいに感じられる親しみを持てる書き方だ。彼女からみたイギリス事情を読んでると、日本はなんでこんなにノンポリ風潮が良しとされているんだろう、といつも疑問に思う。こういった彼女が書いた文章を読んで世界を知って、日本ももっと変わっていけばいいのにな、と思う。


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