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【読書感想】超地球的なことーーソン・ウォンピョン著『プリズム』を読んで

ソン・ウォンピョン著 矢島暁子訳 祥伝社 2022年出版

 図書館の棚にあったから、借りてみた。つい最近読んだ『アーモンド』の著者ソン・ウォンピョンの小説。

 4人の男女の恋愛話の長編作。『アーモンド』は青少年文学って言われてたけど、この本はそんなことないのかな。でも分かりやすい恋愛話だからやはり若干若い人向けのような気もする。久しぶりに読んだ真面目な恋愛話だった。三角関係のような恋やら、ずっと好きなんだけど相手が振り向いてくれない恋やら、いろんな恋のかたちを書いている。昔に友達以上恋人未満のような関係を送っていた男女が最後に結ばれてハッピーエンドになるのかな、ってちょっと思っていたけど、なぜか、別れることになって、そのなぜかは書かれていないんだけど、男女にはこういう別れってあるよな、と思った。というか、ジェインという女性がすごくタンパクで、彼女のこと考えてたら、韓国人って会話してるとき、すごく無表情で相手の話聞くよな、ということを、ふと思い出した。ジェインはいつもどこか抑制されていて、読んでいてもどかしい。すごく色白で端整な顔立ちをしたおとなしい女性を思い浮かべる。もう一組出てくる男女の恋愛話の女性は、あっけらかんとなんでも、あけすけに人に話してしまう。その対比がおもしろい。

 私はこの小説読んで、初めてDINKsという言葉を知った。結婚した夫婦共働きでダブルインカムで子供を持たないことを決めた人たちのことをいうらしい。韓国の小説でこういう言葉に出会うなんて、やはり、現代の社会的現象とかを小説に取り入れる傾向のある韓国文学ならでは、だと思った。コロナ禍まっただなかに書かれた小説なので、最後の作家のあとがきに、マスクをしたシーンを入れようか悩んだ、とあったが、そういう現実的なこと考えるのがさすがだな、と思った。

 でも、ちょっと最近、私の韓国文学熱が下がってきている。ちょっとソン・ウォンピョンのこの本読んでから、なんかすごくいろいろ詰め込まれた小説だったので、なんだかお腹いっぱいになった。

 最後に女性の登場人物が、パソコンで世界の動画のニュースなどを検索して観ている描写があって、こんな記述がある。

「暗い部屋の中で地球上のあらゆる惨劇を目撃したあとに、過去の恋人の新しい恋をのぞくのは、やっぱり超地球的な感じがした。イェジンはブラウザを閉じて窓を開けた。自分にはひとときだったけれど、誰かにとっては永遠かもしれない。恋愛についての意外な教訓をくりかえし噛みしめ、イェジンは不安と甘さの入り混じった気持ちを抱えて、ほろ酔いのまま夜明けを迎えた。」p. 236-237

 この「超地球的」って言葉は原文でどうなってるか知らないが、すごく適切な表現のような気がした。私の中で、「超地球的」って言葉、流行りそうな予感。


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