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【読書感想】希望が持てる話ーーソン・ウォンピョン著『アーモンド』を読んで

ソン・ウォンピョン著 矢島暁子訳 祥伝社 2019年出版

 この本、数年前すごく売れて、よく見かけていたが、なんとなく表紙のポップな絵の少年が気に障って買わなかった。このまえ図書館に行ったら珍しく、本棚にあったので借りてみた。

 とてもおもしろくて、ずんずん読める小説だった。一気読みした。

 こないだの『ペイント』という韓国小説と同じで、この小説も、青少年文学賞を受賞したらしい。

 主人公が高校生の青年で、不良の子と友達になり友情を育んでいく話。主人公の青年は、生まれた時から感情というものが理解できない、表情がつくれない子だったんだが、その不良少年と交流していくうちに、最後では涙を流すようになる。韓国の小説って家族の結びつきが色濃く書かれている本が多いが、この物語も、始めに青年の母親と祖母の様子が書かれており、それがとても心暖かくなる描写で、やはり、十代の読者はこういう本を読んでほしい、とちょっと思った。その一方で、家族が知らない男に刺されて殺されるとき、周りにいた人間が、誰も助けようとしていなかった光景が青年の記憶に焼き付く。そういう社会問題が赤裸々に書かれていて、日本も同じだな、と思った。こういう光景は、アメリカとかでは異様だと思う。誰も助けようとしない、近くにいるのに、知らないふりをする人たち。この間、SNSを何気なく見てたら、電車の中で男性同士が殴り合っているのに、誰も止めようとしてなくて、しかも動画をとっている、という動画を眺めてたら、とても異様な国のように私も感じたのを思い出した。

 この小説で、感情が薄い青年が主人公だけど、主人公自身も、自分の母親と祖母が殺されるのをただ、見ているしかなかった、というが、恐怖という感情がないから、逃げ出すことができない。それを同級生たちが、物珍しがるのだが、なにも助けない他人も感情がないわけではないのに、見ていることしかできない。その代わり、不良少年は、チョウチョの羽をもぐということをしているだけで、顔がゆがんで、嫌気がさす、という、なんか繊細な描写があって、人ってそういうもんだよな、と思った。

 なんかとても、希望というものを抱ける小説だった。最近、素直にそう思える小説ってあまりない気がする。若い人にぜひ読んでもらいたい。


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