『サハマンション』チョ・ナムジュ著を読んで
チョ・ナムジュ著 斎藤真理子訳 筑摩書房 2021年出版
格差社会の最底辺で暮らす人々が住むサハマンション。そこで暮らす人々のことが描かれている。ここまで住むところで格差社会が表れてしまっているのは現代の韓国らしい問題だと思うし、MERSという呼吸器症候群と思われる病気にかかって、政府の実験台にされる人が出てくるのも、現代韓国の社会的問題をはらんでいる。
サハマンションに住む人の人間関係と事件が描かれている。どの住民も訳ありなのだが、最後になって、政府との葛藤が見えない敵との葛藤となって、住民の前に現れる。最後は、心拍数があがったままぷつりと終わって、この上がりっぱなしの私を何とかしてくれ、となって終わった。
やはり、この作家は、人間の心の襞というか、細かい動きを書くのがうまい。かといって人情とかそういうものが描かれているのではなく、ほんのちょっとした相手と自分の心の動かされ方というか、そういったものが、細かい。最後の最後で、サハマンションに暮らす人が実はそうなのね、といったことが分かるのだが、でも、それがきれいに回想されるのではなく、現在、政府に乗り込んでいった女性の戦いだけで終わる。いろいろ細かいことはどうなったんだろ、どうなっちゃうんだろ、という気持ちは残るが、あえて、逆にサハマンションに暮らす人々の人間らしさなどがうまく描かれていて、一応満足感は残る。
韓国の現代文学は、社会的問題に言及している小説が多いように感じる。こういった小説は日本にはあまりないように思う。いつだか、何か読んでたら、韓国は日本と違って、民主主義を若者が勝ち取ってできた国だから、若者の意識が全然違うといっていたが、その通りだと思う。日本は政治的な話をすることを若者は嫌うし、そういった日本とは全く違う文学が韓国では成り立っている。しかし、西欧文学に比べると、日本と同じアジアの文化を持った国なので、料理や生活の様式など、共通するところも多くて、だから私は韓国文学にハマった。今度は日本が、韓国文学の影響を受けて、少し政治的なものに物申すような小説を書くようになればいいのにな、と思う。
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