手紙2
パッションフルーツが食べたいの手紙
パッションフルーツが食べたいんです、死ぬ前には。
あの果実の涙の一粒一粒を噛みしめて、人生を甘酸っぱく終わらせたいんです。だから私は、パッションフルーツの種の如き字を書きます。スプーンで心臓の中身をかっさらいたいのです。その血の一滴も残らなくなったとき、私は空っぽの容れ物を見るんです。中身は一体どこへ消えたのだろうと。
私の腹には何もありません。舌の上にすこし酸味と甘さが残っているくらいです。
パッションフルーツは収穫後、追熟すると表面にシワが寄って甘みが増します。食べごろなのです。店にシワのあるものが無い場合は、表面につやが出ていて、均一に色づいているものを選んでください。手に持って重みを感じるかどうか確かめてください。買ったあと、しばらく置いたらシワが出てくるはずです。食べるときは、冷蔵庫で冷やしてから早めに食べきってしまってください。
食べるのは、雨が降ったあとの晴れた夕方です。14時以降が好ましいです。白くて平たいお皿に載せてください。大きな包丁でふたつに割ったら、金属のスプーンですくって食べるんです。テーブルか、縁側に座って食べるのです。初めはひとり、次はふたり、その次は三人と少しずつ人数を増やして食べるんです。相手が食べるのを見つめていてください。
あのジャズバーで会ったドラマーの方、またあなたがくれたパッションフルーツが食べたいです。
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