森燈子
作成した詩(主に口語自由詩)を集めたものです。
「私」「僕」から「あなた」「君」に対して書かれた作品を集めています。(主に私がある特定の人物に対して抱いた気持ちを書き出して作品としたため、作風が似ています)
タイトル「手紙」の作品集
タイトル「短歌」の作品集
生きることや死ぬことに関して、小説やエッセイを通じて思考します。
いつかぼくはきみと一体化して、「ぼくきみ」になる。いつか「ぼくきみ」は、互いに言葉を交わさなくなる。息苦しく感じるのは、二倍の空気を肺に満たすから。融解、融合する。自我は形を成さなくなり、液状になって混ざり合う。ぼくの美化された記憶に取り込まれた、きみという名の幻。さよなら、もう二度とぼくの前に現れないでね。
パッションフルーツが食べたいの手紙 パッションフルーツが食べたいんです、死ぬ前には。 あの果実の涙の一粒一粒を噛みしめて、人生を甘酸っぱく終わらせたいんです。だから私は、パッションフルーツの種の如き字を書きます。スプーンで心臓の中身をかっさらいたいのです。その血の一滴も残らなくなったとき、私は空っぽの容れ物を見るんです。中身は一体どこへ消えたのだろうと。 私の腹には何もありません。舌の上にすこし酸味と甘さが残っているくらいです。 パッションフルーツは収穫後、追熟する
わたしたちはみな、おなじ細胞だった。海から生まれた。わたしが道端のタンポポや水槽のなかの熱帯魚にほほえみかけるのは、むかし、ともだちだったからなのかもしれない。みずのなか、いっしょに笑い合ったことがあったのかもしれない。だから、もし、きみがタンポポで、わたしが熱帯魚だったとしても、いいともだちになれたのかな。
煌めいて、過去は美しく変わってしまう。劣情。君は美しくなる。美しくなった君は、消えてなくなる。 感覚だけになれたらよかった。僕は、君への恨みとともに消えて、憧れとともに生きる。君の眼差しはいっそう、儚く美しくなる。 ひとり取り残された僕は、劣情にさいなまれて、生き恥をさらすが如く生きる。
性別も名前も、すべてが社会的に規定されるのだとすれば 私の名前は私にかけられた一生消えない呪い だから私は子を持つということを考えていなかった 私はその子に一生分の呪いをかけることになる けれど その子が生きることを許してほしい どんな呪いをかけられようとも その子が生きることを否定したくはない その子はいつか、呪いを解くべく奔走する 今の私のように 私は私に囚われているけれど どうにかしてそこから抜け出す それをするための力はもう、ここにある 私は子どもに呪いとは思えぬ呪い
牛乳とは前世に決別しましたと言いつつ頬張るプリン これは私の糧になるかしら ラムネかじるは涙の味 君をすくうが如くはちみつをすくえば ヘビイチゴ摘みたる君の横に隕石落ちよ
人の死は皆同じだと言うのなら、彼の死もまた、ただの死で、そこに何も意味などは無い。ただしそこには死に至るまでの過程があり、物語があり、事情がある。「事情」だ。 人の死は皆同じだとしても、人の生は一つも同じところなどは無いだろう。リリィと僕と、同じ生を歩む筈など無くて、皆無で、ただ、皆行きつく先は死だということだけだ。それだけが確かなのだ。それが「事実」で、その前に「事情」がくる。非業の死、と言われる死もまた、生存者が括りたがるだけ、死に意味を持たせたいのは取り残される方だ
祖父の家からの帰路、父の運転する車の中で私は酔っていた。助手席に座り、目まぐるしく近づいてきては通り過ぎてゆく街灯の煌々とした明かりに辟易していた。 もう夜だった。太陽は沈み、ぼんやりと呆けた様子の翠色の空もやがてはすうっと色が抜けて、万年筆のインキの如きラピスラズリへと変化した。私は祖母に貰った綿のハンカチを目元にあて、天を仰いだ。フロントガラスに差し込む街灯の明かりが瞼の裏側に宇宙を形成した。流れ星が飛び交い、消えてはまた現れ、私は散りばめられた光と光の間を縫うように
絶縁状 あなたを想うと、とても胸が苦しくなります。あなたのまっすぐな目に貫かれるのが常に恐怖でした。 あなたは私の光です。いつまでも穢されることなく輝いていてください。嫉妬などと言ったものではなくて、ただ、あなたの隣にいると取るに足らない自分の姿が浮かび上がってきて、悲しくなるのです。私の人生にあなたが現れて、私は常に劣等感にまみれた日々を過ごしている。 私はもう、あなたに会いたくありません。一度あなたに会うと、思い出してしまうのです。あなたの輝きを。あなたへの憧れを