『礼子』


礼子は絶句した。
その顔はまるで死体のようだ。
生きているけど死んでるようで死んでるようだが生きている。
そんな礼子の絶句に、私は恋をした。
礼子は僕からみても容姿端麗な人だ。
「びっくりしたー!… … … あ、すみません」
礼子はそう言いながら私にお辞儀をした。
私は「全然大丈夫ですよ」と答えた。
【今思うと何にびっくりしたのだろう?】
………………………………………………
そんなこんなで数日が経ったある日、私はまた礼子と奇跡的に再開した。
【いや、これは奇跡的ではなく奇跡なのではないか?】
私の心の中は舞い上がった。
「こんにちは、奇遇ですね」
私がそういうと、礼子も
「こんにちは、お久しぶりです」と言った。
その時の礼子の顔は、私に絶望を与えた。
「お昼まだですか?もしよかったら一緒に」
私がそういうと、礼子は「ぜひ」と答える。
私は、これまでに感じたことのないワクワクを再び感じるために、幾度か礼子を絶句させようと試みた。しかし、礼子が以前のように絶句することはなかった。
そうしたランチも終わりを告げ、別れ間際。
「また、会えたらいいですね」
そう礼子が言った直後。
二人の目の前で人が死んだ。
信号無視をした車に轢かれたのだ。
礼子は絶句した。私は再び、恋をした。
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目の前で人が死んだという礼子の得たトラウマとそれを共有できる私。
そのような関係性により、私と礼子はそれから幾度となく会って話をするようになった。
一年後、私と礼子の関係性は肌身触れ合う関係へ変化した。
礼子と私は水族館や動物園、たまには映画を見に行ったりもして平和で幸せな時間が長く続いた。
しかし、私は僕についてずっと言えないままだった。
そんなある日
十年に一度と言われる豪雨が私たちを襲った
神様が号泣している。
そう感じながら私は天を見上げた。
………………………………………………
その数分後、礼子が死んだ。
【私は信じない。礼子は僕と生きている】
いつも通っている銭湯で水風呂に浮かんでいたらしい。
死因は急性心筋梗塞。
おそらくだが、サウナと水風呂の温度差によるヒートショックだろう。
礼子の最期の顔は美しく綺麗であり、まさに私が初めて見た礼子。
絶句した顔そのものである。
僕たちは礼子に、恋をした。

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