汝、痛みあれ

 痛みを紛らわしたいので俺の身体のお話をしよう。この身体は一言で言えば殺しに特化してる。しかし人間がどう生きているかそういう事の関心は、無い。
 だって俺はつい数ヶ月前に生まれたばかりだ。生まれた時には既に成人男性くらいの見た目で、生きるのに最低限のルールやマナーなど知識と豊富な殺人と戦闘の技術と知識しか頭に入っていない。
 人造人間さ。おかげで身体は丈夫で身体を常人の何倍も動かせている。この身体の利点は人間にとって重要な食事と排泄が不要なことだ。これのおかげで無駄に時間を使わずに済み、仕事を済ませて早く次の行動に移せる。もちろん、身体と心の痛みを感じずに済むのも利点だ。
 そんな便利で敵なしな俺だが肉体のアップグレードをすると言われた。肉体をこれ以上に動かせるようにもあるがこのアップグレードを担当した人間がなかなかキワモノで。なんと人造人間を更に人間らしくしたいようだ。肌の質感や声のノイズの軽減もそうだがなんと内臓の再現に痛覚と怯えや喜びなど感情を植え付けると来た。
 でもこれに関しては賛同したい。痛みこそ人間を生に執着させるなら、ここから湧く力は侮れない。これまでの任務で見てきただけになおさら。
 この痛みを人間は度々抱えているだと?むしろ殺してくれ。内臓の中で化け物が暴れだしているような感覚を人間には珍しくないと?お腹のこの痛みは所謂脱糞をすることで引いてくれるそうだが原っぱならまだしも町中で脱糞は人間がしてはならない。
 待て、目の前には今日の暗殺任務をやるデパートが見える。そうか、ここのトイレを使えば。しかし容易い試練ではない筈。休日の真昼間で使われていないトイレなどあるのか。目標の護衛は如何ほどか。邪魔をするならただで済まさん。銃を使うのなら銃で返そう。
 俺の中に棲む生への、安易な死への、脱糞への欲求、こいつらとの戦いは始まったばかりだ。

【続く】

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?