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ノエル先生を語りたい 〜月姫RのMVPに幸あれ〜

 いつもお疲れさまです。


 突然ですが、皆さんはノエル先生のことはお好きですか? 私は琥珀さんの次に好きになりました(つまりナンバー2)。


 自分より格下の相手に対しては強気になって、一方で自分より立場が上の人間(主にマーリオゥ)に対してはヘコヘコと付き従う。しかし、上の人間への不平不満はしっかりと募らせていて、志貴相手に陰で愚痴る。

 アルクェイドやシエルといった超人ヒロインが活躍する今作において、ノエル先生は人間味があって親しみやすいヒロインではないでしょうか。攻略できないことが惜しまれます……。

 月姫R(リメイク)をクリアし、今ではメルブラをのんびりとプレイしている私ですが、今回はノエル先生に焦点を当てて、私なりに月姫Rを読解していこうと思います。

 当初、月姫Rという作品全体を読み解こうと考えていたのですが、その過程でノエルというキャラクターに強く惹かれた結果、記事の方向性をガラッと変えて現在に至ります。ノエル先生はホントに悪い女やでぇ……。

 ということで、さっそく語っていきましょう。


*なお、本稿は『月姫 -A piece of glass moon-』のネタバレを多分に含んでいます。ゲーム未プレイの方は予めご了承ください。




ノエルというキャラクター

 まずはノエル先生のプロフィールを見てみましょう。

©TYPE-MOON
  • 年齢:27歳

  • 血液型:B型

  • 身長:169cm

  • 体重:59kg

  • 誕生日:12月25日

  • 属性:混沌、中立

  • 好きな物:自分ごほうび、SNS、アンティーク、年下の恋人

  • 嫌いな物:扱いの難しい武器、歯医者、年下の上司

  • 天敵:シエル

*月姫Rマテリアルより引用。


 ノエル先生の声優を担当なさっているのは、茅野愛衣さんです。ノエル先生のキュートさ、へっぽこぶり、そして歪んだ心を、茅野さんは見事に演じていらっしゃっていました。茅野さんの声が当てられたおかげで、ノエル先生の魅力は120%増したと思います。

 さて、そんなノエル先生の職業は聖堂教会代行者です。日本の総耶市に巣食う死徒と呼ばれる吸血鬼を討伐するため、志貴が通う高校の教師として潜入することになります。

 昼は高校の教師として勤め、夜は死徒を狩る代行者として暗躍。これだけ読むと、なんだかダークヒーローっぽくてカッコよく見えます。しかし、我らがノエル先生はそんなモンじゃありません。ぶっちゃけ、OLと何ら変わりありません。

 包容力ナシ、経済力ナシ、才能もナシ、特に努力家でもナシ、ただただ可愛いだけのお姉さん。それがノエル先生なのです。

 教師として振る舞う際には、露骨なお姉さんアピールをかましてきます。それで志貴のクラスの男子生徒たちは熱狂するわけですが、一方の女子生徒たちからはメチャクチャ嫌われてしまいます。クラスのネット掲示板でボロクソに悪口を書かれるほどです。

 異性からは好かれて、同性には毛嫌いされてしまう。そういう人ってたまにいますよね(何様)。

 ノエル先生は良くも悪くも平均的な人間です。代行者としての戦闘力はそれほど高くなく、低級の死徒相手だと難なく戦えますが、上級の相手になった途端に弱腰になってしまいます。

 そんな彼女は、自分より格下の相手にはとことん強気になります。
 先述した「お姉さんアピール」もそうした心理の表れなのでしょう。年下の相手というのが自分より未熟な存在だと考えているから、ノエル先生は年長者として優位に立とうとするのです。

 自分より弱い相手に対してのみ強気になる。その背景には自分の弱さに対するコンプレックスがあるのです。

 月姫通信Rにて、BLACK氏は「一部の方には刺さる性格」というコメントを書いていらっしゃいますが、その言葉の通り、杜乃には深々と突き刺さりました。おまけに同志もいっぱいいるので安心です。


 とまぁ、ここまで煩悩を垂れ流した文章を書いてしまいました。ただ、ノエルというキャラクターは月姫Rのシエルルートにおいて非常に重要な存在になります。

 人外や超人が跋扈する今作において、どこまでも人間くさいノエル先生。その人間くささこそが物語上で重要な意味を持つのです。




死徒に翻弄された悲劇の少女

 いつもは明るくお茶目なノエル先生ですが、彼女の過去は凄惨極まるものでした。

 彼女が14歳だった頃。当時のノエル少女はフランスに住んでいました。近所に住む日系の大学生にほのかな恋心を抱く、純真な少女でした。

 そんな彼女を襲ったのは、人智を超えた不条理でした。

©TYPE-MOON / Aetas


 死徒二十七祖と呼ばれる高位の吸血鬼たちが、ノエルの住むフランスに舞い降りたのです。彼らはある儀式を執り行うために集まり、その生贄としてフランスの人々を惨殺していきました。描写があまりにも残酷なものであるため、詳細は省かせていただきます。

 一言だけ書くとすれば、フランスは地獄絵図と化したということです。

 その過程で、ノエルは両親を殺されてしまいます。また、彼女自身も祖の一体に捕まってしまい、数十人の人間と共に深い落とし穴へ閉じ込められるのです。一人、また一人と虫ケラのように殺されていく様を見せつけられて、ノエルの心は壊れていきます。

 そんな彼女の元に、一筋の「蜘蛛の糸」が垂らされます。それはノエルが片思いをしていた大学生の青年でした。彼もノエルと共に落とし穴へ落とされていたのですが、未来あるノエルだけでも助けたいと申し出たのです。残った人々も青年に賛成し、皆が協力してノエルを落とし穴から脱出させました。

 しかし、ここでさらなる絶望がノエルを襲います。

 脱出できたと思いきや、外には死徒化した街の人々が溢れかえっていました。退路を塞がれたノエルでしたが、背後から迫ってきた何者かによって、死徒が群がる所へ突き飛ばされてしまいます。

 ノエルの背後に立っていたのは、あろうことか大学生の青年でした。ここでノエルは、信じた相手に裏切られるということを経験します。そして、その後の彼女の人生には「裏切り」が付いて回ることとなるのです。

 それから紆余曲折を経て、後に「フランス事変」と呼ばれる一連の災いから、ノエルは命からがら生き延びることができました。ただ、彼女が負った心の傷が非常に大きいもので、彼女の精神性を歪めるには十分過ぎました。

 生き延びたノエルは聖堂教会に保護されます。しかし保護とは言っても、死徒が蔓延るフランスにいたことから、彼女は「汚染物質」として扱われていました。

 彼女に示された選択肢は二つ。一つは、修道女として外界から隔離された生活を送ること。もう一つは、代行者となって死徒を討伐すること。彼女が選んだのは後者でした。

 大人になったノエルは気丈に振る舞っているものの、その心はとても不安定です。ストレスを抱え込みやすく、蓄積されたストレスは他者にぶつけられてしまいます。

 彼女のストレスの解消法。それは弱者をいたぶることです。

 ノエルは低級の死徒であれば容易に倒すことができるのですが、その倒し方が常軌を逸しています。
 まず、数体の死徒を罠へ誘い出してから、じわじわと一体ずつ嬲り殺していきます。一撃で死なない程度に攻撃し、相手が少しでも長く苦しむように仕向けます。
 また、死徒を拷問にかけることもあります。相手が何ら有益な情報を持っていないことは明白であるにも関わらず、ノエルは嬉々として相手をいたぶります。

 ノエルにとって、死徒は憎むべき存在です。そうした憎悪の感情も相まって、ノエルは躊躇なく死徒を殺していきます。それも、なるべく惨たらしい方法によって。

 彼女の歪んだ人間性はやがて、後の悲劇を引き起こす要因となるのです。




度重なる「裏切り」の果てに

 総耶市を訪れたノエルは、相棒であるシエルと共に死徒の捜索を行います。この二人は5年もの間バディを組んでいるのですが、その関係は良好とは言えないものでした。

 シエルは、聖堂教会の埋葬機関に所属しています。埋葬機関は対吸血鬼のエキスパート集団であり、一人一人の実力は「動く武器庫」と称されるほどです。その中で、彼女は死徒二十七祖のうち3体を討伐した実績を持っています。

 ノエルにとって、シエルはどう足掻いても追い越せない絶対的な強者です。凡人止まりのノエルにしてみれば、シエルとのバディ生活は自身の弱さを痛感させられる日々だったことでしょう。

 それ以上に、ノエルはシエルに対する憎しみを抱いています。何故なら、かつてノエルが住んでいた街を地獄に変えた「フランス事変」を引き起こしたのが、シエルだったからです。

 正確に言えば、シエルの肉体に転生した吸血鬼ミハイル・ロア・バルダムヨォンが「フランス事変」を引き起こしました。しかし、ノエルの記憶に焼き付いているのは、街の人々を蹂躙し、嗜虐的に嗤うシエルの姿なのです。

 「フランス事変」で儀式を失敗したロアの魂がシエルの肉体から離れたことで、シエルは吸血鬼の不死性を有しながらも人間として生き永らえることができました。
 理屈の上ではシエルもまたノエルと同じ被害者だと捉えられますが、ノエルはどうしても気持ちの折り合いをつけることができませんでした。

 そんな心境であっても、ノエルがどうにか5年間耐え続けることができたのは、シエルのことを「英雄であり、もう人間ではない」と自身に言い聞かせていたからです。死徒を殲滅するために動く機械のような存在だと思うことで、シエルに対して人間的な感情を抱かずに済ませられたのです。何故なら、道具に対して喜怒哀楽の感情を抱く必要はないのだから。

 しかし、総耶市へやってきて、ノエルはまたもや「裏切り」を受けてしまうのです。

 ロアの魂が遠野志貴の肉体に宿っていると推測したノエルは、志貴を殺そうとします。志貴とは、潜入先の高校やヴローヴ戦などで何度も会話を交わした仲でしたが、仇敵に復讐を果たすためならばと迷うことなく志貴に刃を向けます。

 ただ、その刃は志貴には刺さりませんでした。ノエルの攻撃を、シエルが妨害したからです。

 シエルにとっても、ロアは憎むべき存在です。しかし、遠野志貴に対する好意的な感情を無視することができなかったのです。
 今の志貴はロアの意識が表面化しておらず、吸血鬼として処罰される対象には当てはまらない。だから、志貴を殺すべきではない。シエルはそう訴えます。

 そんなシエルの姿を見て、ノエルの心は激しく動揺します。今までのシエルであれば、一切の感情を見せることなく志貴を殺したはずです。けれども、今のシエルは長年の仇を討つことよりも一人の人間に肩入れすることを選んだのです。

 これは、機械のように戦ってきたシエルが人間らしさを見せた瞬間でした。それこそが、ノエルにとっての「裏切り」だったのです。そうして、ノエルの心は完膚なきまでに打ち砕かれました。




快楽と背徳に囚われた鬼

 遠野志貴の殺害が失敗に終わり、シエルに返り討ちにされて、ノエルは身も心もボロボロになってしまいます。そんな彼女の元へ現れたのが、阿良句博士でした。
 力が欲しいと願うノエルに対して、博士は禍々しい見た目をした注射を打ちます。それは人間を死徒化させる注射でした。

 阿良句博士はノエルに告げます。あなたは「何もしていない」と。被害者であることに甘んじて、強くなろうと努力をしてこなかったノエルを嘲りました。

 阿良句博士の行為は、救いの手を差し伸べたというよりも、ノエルの弱さ、あるいは怠慢という名の罪を罰したと捉えることができます。

 何よりも憎んでいた死徒に、自分も成ってしまう。幾度も「裏切り」に遭い続けて、ノエルは絶望の淵に落とされてしまいます。
 そうして、代行者よりもOLの方が向いていたであろう彼女は、不幸にも死徒に成ってしまうのです。


 ……余談ですが、ノエルを死徒化させた時の阿良句博士の笑顔はめちゃくちゃドSです。残忍さをあそこまで集約させた笑顔は他に見たことがありません。
 経緯はどうであれ、阿良句博士は間違いなくギルティです。cv.能登麻美子だからといって許されることではありません。次回作ではギャフンと言わされる博士が見られるのでしょうか……。


 閑話休題。

 ノエルの人生は常に抑圧され続けたものでした。弱い自分に対する怒り、圧倒的な強者であるシエルに対する妬み、あるいは13年前に人生をメチャクチャにされたことに対する失望感の蓄積。様々に入り混じった負の感情がノエルを追い詰めていき、限界を迎えた彼女は人間を辞めてしまうのです。

 ただ、不謹慎な発言かもしれませんが、ノエルは死徒に成った後の方がイキイキとしていたように思います。

 人間だった頃のしがらみから解き放たれて、強い力を手に入れた彼女は殺戮を行います。それこそ、おもちゃを手に入れた子どものように。

 少女の姿に変貌を遂げたノエルを見るに、彼女にとっての死徒化は転生とも見て取れます。人並みの日常を送ることができなかった過去をやり直したいというノエルの潜在的な願望が、若返りにも似た形で現れたのではないでしょうか。

 東洋人の留学生である「彼」ともっと仲良くしたかった。もっと家族との日常を謳歌したかった。二十七祖の儀式に巻き込まれた自分を誰かに救ってほしかった。
 叶わなかった願いは呪いとなり、やがてノエルを死徒化へと駆り立てたのです。

©TYPE-MOON / Aetas


 加えて、彼女は死徒化するにあたって、「薔薇姫(ロズィーアン)の原理血戒」を会得しています。この力は「快楽と背徳の園」と称され、「最も美しく最も醜悪と謳われた」と言及されています。

 この力とノエルが結びついたことは必然だったと言えます。弱者をいたぶるという「快楽」に溺れて、聖職者でありながら悪行に手を染める「背徳」に囚われたノエルだからこそ、ロズィーアンの「薔薇の魔眼」を手に入れることができたのでしょう。

 こうして超人的な力を獲得し、優越感に浸るノエルですが、死徒化してもなお「裏切り」に遭ってしまうのです。

 シエルに命を救われた志貴は、不幸にもロアの魂に汚染されてしまい、徐々に肉体が吸血鬼のものへと変化していきます。そのような状態で、志貴はノエルと対峙します。

 相手は死徒に成り切れていない半端者。そう高を括って、ノエルは志貴をじわじわと痛めつけます。相手が弱者だと分かった途端、嬉々として蹂躙したがるのは人間だった頃から変わらない性(サガ)なのです。

 街を守る、大切な人のために戦う。そんな綺麗事をほざいていても、圧倒的な強者、絶望的な不条理を前にすれば心が折れて、醜い本性を晒すだろう。ノエルはそう信じていたのでしょう。

 けれども、志貴は決して折れませんでした。死徒化したノエルを前にしても、「薔薇の魔眼」によって悪夢に囚われたシエルを前にしても、志貴は諦めることなく戦い続けたのです。それはシエルに続く、ノエルにとっての「裏切り」でした。

 志貴とノエルは、共に吸血鬼に人生を狂わされたという共通点があります。その結果、死徒化したという点も同じです。
 しかし、この二人には決定的な違いがありました。それは、ノエルが吸血鬼として行動していたのに対して、志貴はあくまで人間として行動し続けたという点です。

 欲望に身を任せるのは心理的な抵抗がなく、とても簡単な思考です。吸血衝動に突き動かされて人間を襲う。憂さ晴らしのために人間を痛めつける。死徒の力を以ってすれば造作もないことでしょう。

 それに対して、死徒化が進行する中でも人間性を捨てずに、刻一刻と魂を蝕まれる恐怖に抗うことは並大抵の所業ではありません。それが為せた志貴は強い心の持ち主なのだと言えます。

 逆説的に言えば、悪魔の囁きに陥落したノエルはどこまでいっても弱いままだったのです。




叶わぬ願いは悲痛な叫びとなって

 志貴とノエルの戦いが熾烈を極めた時、志貴は、駆けつけたシエルに後を託します。
 ノエルの「薔薇の魔眼」によって、過去に犯した償い切れない罪に押し潰されていたシエルでしたが、そんな自分のことを命懸けで守ろうとしてくれる志貴のことを思い出し、自身の罪と真正面から向き合う決心をしました。

 ロアの転生を食い止めたいという使命感は変わらずに抱いていて、それと同時に志貴を救いたいという個人的な感情も大事にしたいというのが、シエルが出した結論です。
 たとえ自分が悪なのだとしても、「善き生き方」を望んではいけない理由はない。そんな想いで、シエルはノエルと対峙します。

 シエルに復讐しようとするノエルの言い分は「間違いであり、正しい」。シエルのロアの転生を止めるという使命感もまた「間違いであり、正しい」
 その点で、シエルとノエルは共に「善悪の狭間にいる同じ罪人」として「同じ境界に立っている」のだとシエルは語ります。

 ならば、「あとの秤は力で示すしかない」と続けます。

「それぞれの正しさは、互いの強さでしか量れない」

 シエルはそのように言いました。これは単純な能力の比較ではなく、意志の強さ、互いに信じる正義の確かさという意味での「強さ」を示しています。

「強い方が正しいのではなく、己の強さで正しさを証明するしかない」

 万能ではない人間だからこそ、戦わなければならない。戦うことでしか、和解も、決裂も、何も叶わないのです。


 シエルと攻防を繰り広げるノエルは、戦いの中で本心を露わにしていきます。

 代行者として務めていたノエルは、決してロアへの復讐のために戦っていたわけではないことを自覚します。かつてロアが犯してきた数々の悪行も、今後ロアが転生を繰り返す度に被害を被るであろう人間たちのことも、ノエルの頭にはありませんでした。
 彼女の心を占めていたのは、ノエルが暮らしていた街を蹂躙した17代目ロアの転生体であったシエルに復讐したいという想いだけでした。

 総耶市に蔓延る死徒のことも、死徒の犠牲に見舞われてしまう市民のことも、ノエルにとっては些事でしかなかったのです。


 ノエル対シエルの戦いは、あっけなく終わりを迎えます。

 ノエルは死徒の強大な力を手に入れましたが、シエルはそれを上回る力を有していました。死徒化を経てもなお覆せない実力差を痛感したノエルは、阿良句博士から受け取った注射をさらに打ちます。
 しかし、死徒の力に対するノエルの許容量は限界に達しており、能力を底上げするどころか、ノエルの肉体は崩壊していったのです。

 自爆にも似た最期の一撃を放つノエル。体が崩壊していく中、彼女は本音を吐露します。


「痛い、痛い、痛い……! 助けて、シエル助けて、うるさい、おまえなんかに助けられるか! こんな、ひどい、いたい、どうして、どうして!」
「なんで、なんでよ……! 演技のままなら良かったのに! いつもの、非人間のままなら、わたしだって赦せたのに! 吸血鬼を狩るだけの、戦うだけの機関(エンジン)なら良かったのに! ───本当に、心から尊敬していたのに!」
「なんで、なんでこんなところで───私を置いて、ただの人間に戻っちゃったのよぅ……!」
『月姫 -A piece of blue glass moon-』「13/蜃気楼」より


 シエルを憎む気持ちの裏では、同じ代行者として尊敬する気持ちがノエルの中に芽生えていたのでした。

 体が砕けていく最期の瞬間。ノエルは「13年前に言えなかった、最後の願いを口にした」のです。

「……お父さんを、返せ。お母さんを、返せ。わたしの───わたしの人生を、返せ……!」

 シエルに恨み言を吐いて、ノエルの体は灰となって消えてゆくのでした。


 ノエルの最期を見届けたシエルは、聖堂教会でノエルと再会した頃を振り返ります。

 教会の司祭から不興を買ってしまって、代行者の立場が危うくなったノエルは、修道院送りを免れるためシエルに弟子入りしました。それはノエルにとっては苦渋の決断だったのかもしれません。

 それから5年もの間、仕事以外では口もきかない関係が続きました。
 しかし、ノエルとは満足に言葉を交わせない中でも、シエルはずっとノエルのことを気にかけていました。いつ精神が壊れるか分からないほど危うかったノエルに、代行者の任務は荷が重すぎたのではないか。自分とバディを組まなければ、もっと別の人生を送ることができたのではないか。シエルなりに、ノエルの身を案じていたのです。

 ノエルに何も返せなかったことを悔やみ、シエルはもう二度と届かない謝罪の言葉を呟くのでした。




TYPE-MOONの「おかわり」精神

 ノエル先生へのラブレター(?)は以上になります。こうしてノエル先生に着目して、月姫Rのシエルルートを読んでみると、「罪と罰」というテーマがより鮮明に浮かび上がってきました。

 シエルの罪を糾弾する存在であり、死徒に翻弄される弱い人間の代表であり、欲望に負けてしまう人間の悪性の象徴であったのがノエル先生なのだと思います。
 そういう負の側面を余すことなく見せつけたノエル先生だからこそ、人間味を強く感じられたのかもしれません。

 なお、本編の前日譚(あるいはIFのストーリー)となる『MELTY BLOOD:TYPE LUMINA』では、志貴に催眠をかけて恋心を抱かせようとしたり、死徒化してキャッハーするノエル先生が見られます。しかし、そこで幸せになれたかというと……。


 月姫の魅力についてはまだまだ語り切れていません。ノエル先生に負けず劣らずで魅力的なキャラクターが多く登場していて、一人ずつ語り出すとそれだけで本が一冊出来上がります。
 また、このゲームはシナリオ、グラフィック、音楽、演出、とどの要素を取っても最高級の仕上がりです。10年前のまほよですら、その仕上がりに度肝を抜かれたというのに、月姫Rはそれを上回っています。これはもはやビジュアルノベルの頂点といって差し支えないのではないでしょうか。

 あと、個人的にアルクェイドデート服ver. +猫耳のイラストにはハートを撃ち抜かれました。今作における武内崇先生の最大のグッジョブだと思います。


 今作でこれだけ堪能することができたので、次回作への期待はとても高まっています。

 果たして琥珀さんの向日葵のような笑顔を見られる日は来るのか? そして型月民、悲願のさっちんルートは実装されるのか?

 奈須先生のコメントによれば「オリンピックを待つくらいの気持ちで構えて」ほしいとのことなので、首を長〜くして待っていようと思います。

↓奈須先生のコメントの引用元


 最後に、TYPE-MOONというサークルの魅力について簡単に綴りましょう。

 TYPE-MOONさんの魅力。それは一言で言い表すなら「おかわり」の精神です。

 昨今、スマホ一つあればあらゆるコンテンツが楽しめます。しかし、いつでもどこでも利用できる手軽さ故か、時間の短いコンテンツの需要が高まっているように感じます。
 スマホゲームは作業の片手間に遊べることが前提となり、YouTubeは数分の動画が当たり前です。TikTokに至っては1分以下の動画が主流です。
 短時間のコンテンツを次から次へと鑑賞する。これが現代の文化の一つとなっています。

 そんな中、TYPE-MOONさんが提供するコンテンツはむしろ長時間のプレイを要求するモノばかりです。同社が手がけるスマホゲームのFGOにしても、ストーリーの文字数は500万字を超えているとのことで、これは文庫本に換算すると30冊を超えるボリュームです。ストーリーの他にサーヴァントの育成なども合わせると、膨大な時間を要求されること請け合いです。

 なぜ、これだけの時間をユーザーに費やしてもらうのか。それはテキストの量を増やすごとにキャラクターや世界観の魅力を詰め込んでいるからです。
 ストーリーの中で活躍したあのキャラクターの話をもっと読みたい。あの場面で触れられた設定はどういう伏線になっているのかが気になる。そんなユーザーの想いに応えるように、TYPE-MOONさんは新しい物語を紡いでくれます。これこそが「おかわり」の精神なのです。

 月姫Rは、ファンが募らせ続けた20年分の「おかわり」に対して、TYPE-MOONが誠心誠意込めて作り上げた結果だと言えるでしょう。どれだけ時間がかかっても、ユーザーの期待には必ず応えてくれる。その想いが作品を通してひしひしと伝わってくるからこそ、いつまでも応援したくなるのです。

©TYPE-MOON / FGO PROJECT


 月姫Rをプレイし終えた今となっては、ただただ感謝の気持ちでいっぱいです。

 20年の時を経て『月姫』という物語を大幅にリライトしてくださった奈須きのこ氏、超絶可愛い琥珀さんと残念美女のノエル先生をはじめとする魅力的なキャラクターのイラストを描いてくださった武内崇氏、そして各方面で『月姫』のクオリティを最大限に高めてくださったTYPE-MOONの皆さん。

 こんな素敵な作品をプレイさせていただけて、本当にありがとうございました。これからもずっと追いかけ続ける所存です。


 それでは、次回作『月姫 -The other side of red garden-』の発売と『魔法使いの夜』の劇場版を心待ちにしつつ、ここで筆を置かせていただきます。

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