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コンクールの舞台で大失敗したあの日と今

あれは中学2年生の秋だった。

小2の時から受け続けていた地元のピアノのコンクールの前日。

ピアノのレッスンへ向かう電車の中にたまたま乗っていたアメリカ人ALTの先生、マイケル。

お互いに気付き、「Hi! 今どこに向かっているの?」と話しかけられた。

私「ピアノのレッスンに向かっているんだ。」

マイケル「そうなんだ!ピアノいいね!僕もピアノ大好き!」

そしてこのとき、「実は明日コンクールでさ」と伝えたかった私は「コンペティション」という英単語が咄嗟に思いつかず、その場を凌ぐために「明日ピアノのコンサートがあるんだ」と言った。

マイケル「本当!?いいね!聴きに行ってもいい?」

私「(内心:「予選だけどいいのかな?」)…うん、もちろん!」

マイケル「ありがとう、楽しみにしてる!」

そうして次の日、本当にコンクールへ来てくれたマイケル。

本当はお客さんを招待するような規模ではないコンクールの地区予選に現れたALTの先生マイケル。来てくれたのは嬉しかったけれど、予定していなかったゲストがコンクールに来てくれて動揺した私はこの日、生まれて初めて極度のあがりを経験することとなりました。

曲の途中で頭が真っ白になり、暗譜が飛び、ボロボロになってしまった舞台。

この日をきっかけに私は10年以上の間あがりに苦しむこととなりました。

私は今、ドイツで「音楽家とパフォーマーのためのメンタルトレーニング」について研究をしています。 スポーツ心理学で発展してきたメンタルトレーニングをどうやって音楽の世界に応用するかについて、論文を書いています。研究を研究だけにとどまらせないように、実際に音楽家さん達とセッションしたり、ワークショップをしたり、最近はオンラインでの講座も開いています。

私自身がピアノを習う中で苦しんできたあがり症。その経験があったからこそ今の私があります。そしてだからこそ極度の緊張に悩む音楽家やパフォーマーの気持ちも痛いほどわかります。

これもすべてあの時の失敗があったから。そしてあの日来てくれたマイケルがいたから。当時私の中学校でALTをしていたマイケルは今はどこで何をしているんだろう。

大失敗したコンクールがを終えて数日後。まだ少し落ち込む落ち込む私にマイケルはとあるピアノの楽譜をプレゼントしてくれました。それはラプソディー・イン・ブルーで有名なガーシュインのピアノ曲集でした。当時はまだ手をつけなかったけれど、それから約10年経った夏、宇都宮でジャズピアニストの友人と一緒にコンサートを開催した際に、そこから曲を選曲しました。

あの時の失敗があったから今がある。

過去の失敗とマイケルに。チャンスをくれて、ありがとう。



#あの失敗があったから

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