Closed memories 3

 とりあえず、現実的なところから対処しよう。
 そう言って千晶はその夜やってきてくれた。
 家よりふみん家の方が会社近いしね。と、お泊りセットまで完備して。
 さらには両手に缶チューハイとお菓子とおつまみがしこたま入ったビニールまで下げていた日には、普通に飲みに来ただけとしか思えないが、昼間の電話で完全に帰る気を失ったふみには心の底からありがたかった。

「…見た感じ、おかしなところはなさそうだよね。」

 監視カメラのことを言っているのだろう。来るなり部屋の隅々を調べ始めた千晶は、謎の道具を取り出して言う。

「…それ何?」

 謎の黒い小箱には、アンテナのようなものが生えている。

「え、見てわかんない?ラジオだよ。」
「あぁ、…ラジオ?」
「あんたラジオくらい常備しとかないと、地震来たら身動きとれなくなっちゃうよ。ライフライン全滅するんだからね。」

 変なところで母親のような説教をする。スイッチを入れたのか、ラジオから軽快な女性のおしゃべりが聞こえてきた。

「えっと…ラジオ聞くの?」

 ほとほとあきれた、と言わんばかりのため息とともに心底冷めた目を向けて

「あんたさぁ、そんなに何にも知らないでよくこんな都会で一人暮らししようなんて思ったよね。あのね、盗聴器の電波がラジオに干渉して、受信障害が起こるの!だから盗聴器探すのはこれなの!」

「と…盗聴器!?」
「見たんじゃないなら聞いたのかも、でしょ。…ん~~まぁ、これもハズレっぽい。」

 さほど広くない部屋の四方にラジオを向け、キッチンもトイレもバスもすべて周り終えて、千晶はラジオを切った。

「ま、とりあえず部屋ン中は大丈夫そうだから、心置きなく飲もう!!」
「千晶やっぱり、飲みに来たんだよね?」
「まーひさしぶりだしさー、こんなことでもないと滅多に飲まないじゃん!あ~めっちゃ腹減った。レンジ借りるよ~」

 と、総菜のトレーを3つ4つ持って台所へ向かう。ふみも後を追い、皿やグラスを出す。

「あ、チューハイ死ぬほどあるからさ、すぐ飲まないの冷蔵庫入れといて~」

 重たそうな袋の中には、350㎖缶が1,2,3,4…これ一晩で飲むつもりなのだろうか?と困惑しながら冷蔵庫へ入れる。あ、これ今日食べるつもりだったのに、明日まで持つかな?と合挽ミンチのパックの日付を確かめる。ギリギリセーフのようだ…

「あ、これ?例の切れちゃったペンダント。」

 温めた惣菜を部屋に運んで千晶が言う。
 そうだ、出しっぱなしだった…と、また少し気味の悪さを思い出してしまった。

「なんだっけ、すぐ直るよって言ってたんだよね?なんかのアクセサリー屋さんの話かな。」
「…そういえば、なんかお店の名前言ってたような…」
「おぉっ。思い出して!!唯一の手掛かりかも!」

 またビーズ始めてさ~、お店で教えてくれるとこ見つけたから行ってみたんだ、すっごいいい人だったしアクセサリーもめっちゃ可愛いの…

「彫金もやってるお店で…P…なんだっけ、英語じゃなさそうな横文字?」
「あ、出た。これ?」

 差し出された画面に、見覚えのある文字列が並んでいた。

「…すごい。コレだ。Petit Pomme。え~~~なんで??」
「ビーズ、彫金、Pで検索かけた。」
「すご~~~い~」

 こんなことでいちいち盛り上がんないでよ、と言いたげに再び冷めた視線をくれて、千晶は言った。

「おし。そんな遠くないね。行ってみよう。日曜日なんかある?」
「えっ…行くの?」
「店が実在してるんだから、そのメールもただのマボロシじゃない気がする。とりまほかに手がかりもないわけだし、行くしかないでしょ。」

 と言った千晶の眼には、さっきまでの冷めた光はどこへやら、好奇心にらんらんと燃える炎が輝いていた。

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