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書評の記録

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記事一覧

さざなみ書評『音楽の聴き方』

さざなみ書評『音楽の聴き方』

 胸の鼓動が高まるほど感動した音楽。その感想を誰かに伝えたいけれど、なかなか思いどおりの言葉になってくれない。せっかく下書きしてみたツイートも、語彙力のなさにがっかりしながら削除する。消えた感想といっしょに演奏への感動まで失われた気がして、一人でいたたまれない気分になる。あんなに感動したのに。

 ・・・そんな経験をしたことはあるだろうか? 私は何度もしてきた。しかしそれでも音楽を言葉にしたくて仕

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さざなみ書評『うたのしくみ』

さざなみ書評『うたのしくみ』

 音楽はじっくり聴いてなんぼ。それなのに、時間に追われて「ただ曲を流してただけ」になっていたのかもしれない。そのことを痛感し悔しい思いをさせられた本がある。

 しかし、その本は同時に、こんな希望もくれた。

 「何度も聴いて味わいつくしたつもりになっていた歌でも、これからもっと聴き込めば、隠された魅力が見つかって、その曲をもっと好きになれるんじゃないか?」

 歌が好きなすべての人に、そして世界

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さざなみ書評『マンガと音楽の甘い関係』

さざなみ書評『マンガと音楽の甘い関係』

 お久しぶりです! 突然ですが、みなさんは「音楽マンガ」といわれたらどんな作品を思い浮かべますか? いろんなものがありそうですが、『のだめカンタービレ』(以下『のだめ』)や『四月は君の嘘』あたりなら多くの人にうなずいていただける気がしますが、いかがでしょう?

 『のだめ』といえば、1990年代に生まれた私にとってはまさに世代で、ちょうど吹奏楽部に入ったころに毎週ドラマを楽しみにしていました。のだ

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さざなみ書評『論より詭弁 反論理的思考のすすめ』

さざなみ書評『論より詭弁 反論理的思考のすすめ』

 プレクトラム結社の広報部長によるツイートは職人芸の域に達している。副業先の楽器メーカーで培った確かな科学知識と、「その場の思いつきでは?」という軽いノリで導出される結論のこじつけに妙味がある。そんな突拍子もないジョークが支持されるのは、広報全般を管轄し、年次の総会でも自ら演奏するなどして厚い信頼を築いていることも無関係ではないだろう。

 しかし私はというと、東海随一の企業たるプレクトラム結社を

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さざなみ書評『休日に奏でるプレクトラム』

さざなみ書評『休日に奏でるプレクトラム』

 「茶化してはいけない人」というのがいる。広報部長は記事の中でイジれるけど、関東支社社長はイジりづらい。中野二郎はネタにできるが、武井守成は気が引ける。交友歴の違いなのか、キャラクターの違いなのか。うまく言い表せないなにかを敏感に察知し、相手に合わせてコミュニケーションスタイルを微調整するというのは、業界を問わず採用されている処世術だろう。

 そういう意味で、今回紹介する『休日に奏でるプレクトラ

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さざなみ書評『ツイッター哲学 別のしかたで』

 思えば、私のマンドリン生活はいつもツイッターと共にあった。大学の講義に出て、学食で昼食をとり、図書館で寝て、サークル棟で楽器を弾く。一連の行動の中でいくつツイートしていたかは分からないが、「人生の夏休み」に上気してどうしようもないことばかり呟いていたに違いない。

 どんなツイートがあったかな、と思い返してみると、マンドリンを抱えたネコがサーフィンしてるクソコラや、都府楼跡の廃墟にヌマクローが立

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さざなみ書評『〈彼女〉の撮り方』

 どういうわけか、プレクトラム結社は写真をほとんど公開しない。画像ツイートは公演ポスターばかりだし、YouTubeに投稿される動画は白黒加工されてよく見えない。その映像もアンサンブル部門しか公開されておらず、合奏部門は音源だけである。したがってプレクトラム結社の実態を知るためには、会場に足を運んで公演を鑑賞するか、うまい棒でこき使われる従業員になるしか方法がないのだ。

 これは広報部のブランディ

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さざなみ書評『ベルリンうわの空』

 従業員の大規模ストによるプレクトラム結社の公演中止。その報を受けても、きっとあなたは何のその。総帥の邸宅でトレモロをやめない孤高のムニエル人形のように、今日もご自宅で演奏に磨きをかけていることでしょう。しかし演奏会というリベラルな社交の場を失った、プレクトラムという共通言語なき社会は精神的なストレスの温床であり、趣味以外で自分を貫くのはなかなか難しいものです。アゴーギグをきかせることもままならず

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小さな勇気さえあれば。(『ベルリンうわの空 ウンターグルンド』書評)

小さな勇気さえあれば。(『ベルリンうわの空 ウンターグルンド』書評)

『ベルリンうわの空 ウンターグルンド』という漫画が発売された。

あとがきでは、読書がくれる体験について書かれていた。読書好きとして共感でき、本作のファンとしても嬉しい内容だった。

「何かを読んで気づいたりわかったり、疑問や違和感を感じたり、不明瞭なまま記憶に残ったりすることも、この漫画を読んだ「あなた固有」の経験だと思います。ストーリーが明確な1本道のレールでないほど「あなたがどういう人間か」

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長崎で恋したことのある人、『青の花 器の森』ば読んでキュンキュンせれ♡

長崎で恋したことのある人、『青の花 器の森』ば読んでキュンキュンせれ♡

長崎のユルさと愛嬌が好きだ。ジャ〇ネットタカタは今日もこれでもかというくらいハツラツとプレゼンし、「ながさき犬(けん)ちゃん」の訛ったダミ声は、土曜昼帯のお茶の間を長年あたためつづけている。

画像出典:ひるじげドン公式
ワンワンじゃなかよ

大学で出会った長崎出身の同級生たちも、争いを好まず大らかな性格だった。誕生日を皆で祝い、冗談をいえば言葉よりも先に笑い声で返してくれるような人たちなのだ。

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