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【買物論文】ID-POS分析から得られた考察を、店頭実験し、実際に売上が上がるか、を確かめるまでやりきった論文。その結果から見えてきたこと。

“買物“に関する論文をピックアップ
して考察していきます。
ピックアップする論文の特徴は、
特徴1:
実務に使えそうな、分かりやすい結果が出ている
特徴2:
結果に対して、気持ちや行動が考察ができる
特徴3:
もっと深掘りたいと思う

⚫︎今日の論文の紹介
広域の消費者購買データに基づくオリーブオイル購買の傾向分析と地域実店舗への適用
坂井 明日香, 丸橋 弘明, 羽室 行信, 笹嶋 宗彦, 加藤 直樹, 宇野 毅明https://www.jstage.jst.go.jp/article/tjsai/36/1/36_36-1_WI2-I/_pdf/-char/ja

この論文のすごいところは、
購買データを分析して、マーケティング施策の仮説を考え、それを店舗で検証して売上が上がるかどうか、までを確かめている点です。
データから導き出される仮説までは、色々な論文で書かれていますが、実際それって本当に売上が上がるんだっけ?というのは疑問が残るところ。
それを店頭で確かめるのは、店舗側のオペレーションを考えるとかなりの理解と労力が必要になりハードルが高い。
それをやりきってるのがすごいです。

具体的には、QPRというレシートデータを活用し、オリーブオイルを購入している人を分析し、併売したら売れそうなものを導き出し、それを店頭で「①併売&POPつける」「②併売する(POPなし)」「③何もしない」で実験して売上が変わるかを検証しています。

店長も知らなかった!オリーブオイルを購入している人は、「ヨーグルト」「納豆」「豆腐」も購入している。

この論文では、顕在パターンを分析しています。
顕在パターンとは、あるクラスに多頻度で、その他のクラスには多頻度ではないアイテム集合の事です。
オリーブオイルを買っている人を5つのクラスターに分けて、クラスターごとに顕在パターンを検証しています。

そこで見えてきたのが、
・未婚60代以上の女性が、オリーブオイルとヨーグルト、オリーブオイルと納豆という組み合わせ
・子供のいる30代から50代前半の女性が、オリーブオイルとヨーグルト、オリーブオイルと豆腐という組み合わせ
で買っているという事

しかもこの事実を、店舗店長や、流通幹部にインタビューして、これらの組み合わせを認識していなかったという事です。
現場の勘だけに頼らず、データ分析することの重要性が伺えます。

実店舗でのオリーブオイル✖️ヨーグルト、納豆、豆腐の実験は、若干売上が上昇。

実店舗での評価実験は以下の通り
・期間は6週間
・オリーブオイルとヨーグルト、納豆、豆腐それぞれの組み合わせで、食べ方を促すPOPを制作
・期間中に、「何もしない日」「オリーブオイルの配置のみを変える日」「オリーブオイルの配置を変えた上でPOPも掲示する日」の3種類を設定
・上記の3種類のオリーブオイルの売上を比較

ちなみに、制作したPOPやヨーグルトと併設した場合の店頭のイメージは以下のような感じ

論文より

その結果が以下の通り。

論文より

見るべき部分は、1番右の行の同時購入割合(%)で、各商品とオリーブオイルが同時に購入された割合を示しています。
「併設POP」の方が、「なし」よりも2倍から3倍くらい高いということは明らかになりました。
しかし、0.08%から0.33%までと、そもそもの%がかなり低い。
これは、ヨーグルト、納豆、豆腐と比べて、オリーブオイルの売上数がかなり少ないため起きてしまっています。

論文はここまでなのですが、私が着目した点が2つあります。

①POP無しの方が、オリーブオイルの売上が上がるの?POPがあることで、利用シーンを狭めてしまう可能性。

私が先ほどの結果の表で気になったのは、flag1の数字で、オリーブオイルの売上数です。
併設POPは36、併設のみが55、なしが20という数字です。

論文より

「併設する」ことで、オリーブオイルの売り場が広がるので、「なし」よりも高くなることは理解できるのですが、「併設POP   36」よりも「併設のみ 55」の方が売上数が多いことが気になりました。
普通はPOPがあった方が売り場が目立って、オリーブオイルの売上が伸びるのではないか?と思ってしまいます。

売上計測の日数や、曜日は、同じ条件で揃えられています。(実験が年末年始にかかっているのでその影響はあるかもしれません。)


POPが下がってしまった理由は、その内容にあるのかもしれません。POPの内容は、ヨーグルト✖️オリーブオイルという食べ方提案です。それを見て自分とは関係ない、そんな食べ方はしない、と思ってしまった人がいたのかなと思いました。
データ分析では、オリーブオイルを購入している人がヨーグルトも購入しているという事実で、一緒に食べているか、また同時に購入しているか、は関係ありません。
ヨーグルトの近くにオリーブオイルがただ置かれているだけであれば、「もう少しでオリーブオイルが無くなりそうだったから買っておこう」と思った人が増えて購入につながった。しかし、POPありだと内容によっては逆に売上を下げてしまう可能性があるかもしれません。

②店頭実験後の分析は、「オリーブオイルの新規客がいるかどうか」まで出来ると良いが、三つの理由から難しい。

今回の研究で、店が売上を拡大するには、オリーブオイルを豆腐や納豆と併設することによって、今までオリーブオイルを買ってなかった人に買ってもらうことが1番重要だと考えます。
理由は、普段買っている人が買うのであれば、購入の前倒しであって、トータルで見たらあまり売上が増えなそう。(購入を前倒すことによって、使用量がアップして売上が伸びるかもしれません。)

しかし、今ままで買ってない人が新たに買ったという分析をするには、以下の3つの理由から難しいと考えられます。
1、今まで買ってないを分析するには、ID-POSを過去まで分析する必要がありデータ利用が膨大になる
2、ID-POSはPOSと比べると数が少なすぎ分析しても信憑性が低い。
3、ID-POSには売場のデータはないため、オリーブオイルの売り場で買ったのか、併設された売場で買われたのかはわからない

今回の論文の分析から店頭実験まではとても面白いですが、実際のPDCAを回していき、効果があったと検証をするのはなかなかな難しいなと考えさせる内容でした。

実際の現場では上記のような懸念点をあらかじめ予想しながら、KPIを定めていく必要があります。

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