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【買物論文】「小売業界で進展するオムニチャネル化と消費者行動の変化」の要約&感想混じりのメモ

“買物“に関する論文をピックアップして考察していきます。
ピックアップする論文の特徴は、
特徴1:実務に使えそうな、分かりやすい結果が出ている
特徴2:結果に対して、人間の気持ちや行動が考察ができる
特徴3:追加でこんな事知りたいと、想像をかき立てられる

今日の論文の紹介
小売業界で進展するオムニチャネル化と消費者行動の変化
西原彰宏
https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/ronbun2211_03.pdf

この論文は、仮説設定からデータを用いて実証するタイプではなく、
様々な論文を引用しながら、現状と今後を考察するタイプの論文でした。
小売がオムニチャネル化している環境変化、消費者の行動、小売りの取り組み、小売りの課題と今後の展望などがとてもよくまとまっています。
そのため、覚えておきたい内容をメモ的に残しておこうと思います。

論文より以下の流れです。



第 2 節
オ ムニチャネルの始まりと消費者行動の変化

( 1 )小売企業におけるオムニチャネル化の 取り組みの背景
・オムニチャネルという言葉が最初に使われたのは、2011年のNRFの報告書
・注目されだしたのは、メイシーズのオムニチャネル宣言や、2013年セブン&アイホールディングスが戦略の中核としてオムニチャネルを位置付けたこと。

この流れを見ると、オムニチャネルはリアル店舗の小売りの
中期経営の戦略から広がっている。
ECの出現、スマホの普及率の拡大、スマートスピーカーなどのIoT出現、
などの世の中の変化があり、EC化率が上がる中で、
その環境変化に対応しなければいけない、リアル店舗の苦悩が伺える。
実際はEC企業のオムニチャネル化の方が先行しているイメージもあるが・・・。

( 2 )消費者行動の変化とオムニチャネル

チャネルの発展段階と消費者のチャネル利用が、
図がわかりやすかったので、論文より抜粋。

消費者がチャネルを使い分けて利用するようになり、
自社の店舗やECで完結すれば、小売にとっては問題ないが、
実際は複数のチャネルを利用する。
例えば、自社ECで商品を確認して他社店舗で 実物を確認してから購買するような
「フリーライダー問題」が起きる。

( 3 )消費者の購買プロセスから捉えた オムニチャネル
購買者が買い物をする際に、購入前、購入時、購入後に
どのようなチャネルを利用しているかを表した一例
したの図がわかりやすかったので、論文より抜粋

上記のようにカスタマージャーニーをチャネルごとに整理して
消費に結びつきやすいジャーニーと
離脱しやすいジャーニー
満足度が高いor低いジャーニーを明らかにし、
改善点を特定するのが大切だと感じた。


第3節 顧客戦略としてのオムニチャネル

(1)店舗やECを展開する小売企業の背景
流通側のビジネスモデルを整理。
したの図がわかりやすかったので、論文より抜粋

小売りのビジネスモデルは複合的になっている。
また、四つのモデルが成り立っているポイントとして2点ある
一つ目は、有形財も含 めた所有から消費へという消費形態の変化
 ・コンテンツのDVDからデジタル財としての配信
 ・カーシェアなどのサブスク
 ・リキッド消費もキーワード(一時的な使用権のみの消費)

二つ目は小売が売っている商品によって、消費者が求めるオムニチャネルが違う
 ・NBのみ扱うorNBとPBを両方扱うorSPA企業
    ・製造業が流通を介さず、直接販売する、製造業のサービス化

( 2 )顧客と関係を築くための顧客戦略と デジタル技術

取得データやマーケティングの変遷は以下の通り
1980年代
 POSの利用開始
 顧客を特定した顧客管理の考え方の誕生(RFMやLTV)
2000年代
 行動データの取得
 購買プロセス全体の補足、関係性の構築 などが始まった
2010年代後半
 リアルタイムの行動データの取得
 ターゲティング

現在は、上記に加えてトレンドになっているのは、
 MAツールやCRMツールの活用とCDPとの連携
 一人一人特定された顧客情報をもとにした
 長期的な関係性を志向するリレーションシップマーケティング
 しかもそれがクラウドサービス化により、
 大手企業だけでなく中小企業も可能になってきている。

( 3 )顧客経験を生み出す顧客接点として捉えたチャネル統合

企業にとてはオムニチャネル化することが重要なのではなく、
自社にとっての優良顧客を創造・維持・強化し、
消費者(顧客)と長期的な関係を構築するため、
どのような顧客経験を提供するかについて考える必要がある。
オムニチャネル化はその手段。顧客戦略の一つ。

要は最も重要なのは、「経験経済」や「経験価値」

それを提唱したのは、
米国のマーケティング科学研究所(Marketing Science Institute, MSI)

ちなみに本論から外れるが、興味深かったのでメモ
MSIにおいて、顧客経験は特に2010年に入り
重要研究課題として取り上げられている。
2010年から2012年では「顧客経験と行動の理解」
2012年から2014年では「製品ではなく、経験をデザインする。記憶され、関心を もたれ、繰り返され、価値のある経験の要因は何か」
2014年から2016年では「顧客と顧客経験の理解」
2016年から2018年では「文 脈に関連したリアルタイムで統合的な経験の提供」2020年から2022年では「オムニチャネル・ プロモーションと流通の台頭」という重要研究課題のなかで「カスタマー・ジャーニーを通じたブランド経験とプロモーションの管 理」と「チャネルをまたがる流通と需要の管理」の二つの下位課題が提示されている

「経験経済」や「経験価値」で留意しないといけないことは以下の二つ

一つ目はリーン消費
これは、消費者の費やす時間と労力を最小限にとどめながら、
消費者が必要なものを必要な時に必要な場所へ正確に届けることを指す
(Womack and Jones, 2005)。

リーン消費の視点から捉えると、
・チャネルをシームレスに行き来してもらう買物経験を 提供すること
・買物自体を短縮したり 簡易にしたりする機能やサービスを提供すること
商材によってや、消費者の買物マインドによって異なる

二つ目は買物自体に対する動機
功利的(utilitarian)、快楽的(hedonic)、 社会的(social)という三つ
功利的買物動機は、買物(行動)を通じて消費 者が求める商品を希望する価格で便利に買えるこ とに対する動機であり、前述したリーン消費と対 応している。

快楽的買物動機は、買物(行動)を 通じて気晴らし、気分の良さ、喜び、楽しさなど の快感情を求める動機であり、買物それ自体に楽 しみを見出すことといえる。

社会的買物動機は、 買物(行動)を通じたステータスや自尊心の強化 など、他者に自身を表現することにも関わる動機 である。
(Huré, Picot-Coupey, and Ackermann, 2017)。

消費者が買物において負担する取 引コストが低下し利便性が向上する側面と、買物 自体の楽しさにつながる側面、そして、買物が有 する社会的な価値の側面など、シームレスな買物 経験以外の買物経験や買物価値も考慮する必要が ある。

第4節 購買意思決定プロセスに関わる変化と 小売企業による消費者対応


オムニチャネル化を通じて、
消費者の購買意思決定プロセスも変化する。
それによる小売の提供サービスの変化など影響しあう。

購買意思決定プロセスの“全体“に及ぼす変化

一つ目は、
購買意思決定プロセス全体における行動の捕捉が進むと
企業による提供サービスの向上に活用できる。
例えば、ビーコンやGPSの活用による情報配信など

二つ目は、
購買意思決定プロセスそのものや一部が省略されたり簡略化される
例えば、スマートスピーカーによる注文など

三つ目は、
無駄な買い物が減る一方で、衝動買いが増える可能性がある

次に、購買意思決定プロセスの“各段階“におけ る変化

問題認識
 ・消費者が今まで認識していなかった問題や潜在ニーズが
  顕在化されやすくなる可能性
  例、エアヴィーブ

情報探索
 ・情報探索の容易化
 ・情報源の増加 特にFファクター
   Friends(友達)
   Families(家族)
   Fans(SNS上の ファン)
   Followers(SNS上のフォロワー)
 ・利用可能な情報の種類の増加
   過去の購買履歴
   保有・所有する商品リスト
   店 頭の在庫情報
   お気に入り登録商品の値引き情報
   使用経験や消費経験の口コミ
 ・パーソナライズ化
   趣味嗜好に沿う情報が提供されやすくなる

購買
 ・キャッシュレス決 済などによる決済の簡略化・時間短縮
 ・購買・決済の前倒しあるいは後ろ倒 しなどの選択肢が広がる

購買後
 ・宅配の進化
 ・店舗受け取り BOPISなど

使用
 ・使用行動の可視化やそのデータを踏まえた
  使用方法の改善に関 わる情報提供やサポート
 ・サブスクリプションを背景 に、消費者の使用を通じて
  カスタマー・サクセスを提供するための
  積極的な顧客へのアプローチの重要性が 高まっている。
  (手厚いアフターサービス)
  例えば、JINS

再評価(購買後評価)
  ・使用時ない し使用後すぐの評価が共有
  ・その評価が 次回購買において活用
  ・消費者の使用済み製品の買い取りや引き取りを行い、
   営利事業あるいは慈善事業として
   3 R(Reduce, Reuse, Recycle)などへの取り組み


第5節  今後の小売企業による チャネル連携のあり方

今後の小売企業において、検討しなければいけないポイント

・顧客の世代や性別などの 違いにより、
 デジタル技術の活用やチャネル連携 のあり方の検討
(高齢者とZ世代)

・ソーシャル・コマースと呼ばれるEC機 能をもち始めたプラットフォームの活用

・AIを活用したボイスボットやチャッ トボットのような人を介さない顧客とのコミュニ ケーションやサービス

・オンライン決済や店舗でのセルフレジ利用など、
 消費者自身も加わるサービス品質の向上

最後のキーワードは、
リープフロッグ(leapfrogging)
この言葉は、元々 は先進国において段階を経て発展・導入された最技術が、既存の社会インフラを有しない新興国 において段階を飛び越えて広まることを指す言葉である。

このリープフロッグはオムニチャネルだけでなく、
どの業界においても大切なキーワードだと思います。
リープフロッグを起こすような、ビジネスアイディアが求められています。


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