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【DesignShip2023】佐藤卓さんの講演からデザインの自由・不自由について考えてみる。

どうも!MoQupの原田です。

今日は2023年9月30日、DesignShip2023を聞いていました。
1日目の講演で一番印象に残った【佐藤 卓】さんのお話しを紹介しつつ、自分の考えを書いてみますね。

はじめに


佐藤卓さんと言えば、
・「ロッテ キシリトールガム」、「明治おいしい牛乳」のパッケージデザイン
・「金沢21世紀美術館」、「国立科学博物館」、「全国高等学校野球選手権大会」のシンボルマークデザイン

など誰もが一度は目にした事があるであろうデザインを手がけ、日本のグラフィックデザイン界では知らない人がいないぐらいの有名人です。

昔から、佐藤卓さんのボトルデザインが好きだったのですが、最近美味しいと思ったウイスキーのデザインも佐藤卓さんの物で、かなり印象に残っていました。(箱買いして度々プレゼントしてますw)

佐藤卓さんの代表作を読んでみると今回のセッションがさらに深まるかと思います。(僕も5年程前に読んだのでうろ覚えでしたが。読み直してみます。)


セッションの内容


今回のセッションは「DesignShip2023」全体で「広がりすぎたデザインを、接続する。」というコンセプトだったので、「デザインは「間(あいだ)」を適切に繋ぐこと」を信条にする佐藤卓さんがオープニングスピーカーに選出されたんですね。

その中でも今回は「デザインに自由はあるのか?」を題材にして話をされていました。

佐藤卓さんの考えるデザインとは?


「デザインに自由はあるのか?」という話しをする前に、佐藤卓さんのデザインに対する視点や立ち位置を知っておく必要があると思いますので、そのお話をして行きます。

佐藤卓さんは、

「デザインは「間(あいだ)」を適切に繋ぐこと」

を信条とされています。

ここで一つ、佐藤さんのデザインした「おいしい牛乳」の事例を出しておきます。

おいしい牛乳のデザイン誕生までの背景(簡潔に記載します!)

(すべては書きませんので、もし深く知りたければ、佐藤さんの書籍を読んでみてください)

今から22年以上前の出来事。【発売は2002年(平成14年)】

味の差別化が難しい牛乳製品で、他製品と味で差別化するために、しぼりたての牛乳のおいしさを味わうためにはどうすれば良いか?を当時の明治乳業の技術者が考えていました。

殺菌工程を経る際に必ず味が落ちてしまう事、その原因が「酸化」によるものだという事が分かりましたが、当時はそれを解決する術がありませんでした。

そして数年の製法に関する研究を経て、酸素になるべく触れないようにする新しい製法が開発され、しぼりたてに近い牛乳の味を再現することに成功したわけです。
そこからパッケージ制作の依頼が佐藤卓さんに来たわけですね。
(詳細を知りたい方は下のリンクをご覧ください。)

牛乳は普通であって欲しい。
自宅の冷蔵庫、食卓にそのまま出てきて欲しい。
日常の一部にあって欲しい。

というシーンで普段飲まれるように「普通である必要はある、しかし、牛乳以下は困るけれど、牛乳以上も困る。それでも、売るときには他の牛乳よりも目立たなくてはいけない」という課題を抱えていました。

「目立つ事」と「差別化すること」という、正反対の求められるものをクリアしなくてはいけない案件だったそうです。

ユーザーへの調査やクライアントとの度重なる議論の末(詳細はザクっと省きますが)、しぼりたての牛乳の味を「そのまま」届ける。
中味に「そのまま」という重要なキーワードがあれば、外見も「そのまま」表現するべきなのでは?ということで

おいしい牛乳は華美なデザインではなく、「そのまま」を表現した「静かなデザイン」になったそうです。

「ストレートにそのまま中身を表現した。」とセッションでは言われていましたね。

大量生産品はそのほとんどが「私を見て!」というデザインをしている。
主張しているデザインの中で目立つためには、「圧倒的に目立つようにする」「静かにする」かの二つしかない。ということで、あえて目立たないデザインを選択しました。
その際には相対的な「目立つ」というイメージをクライアントと定義する時間をとりました。

とセッションでは話されていて、クライアントとのイメージ擦りあわせにかなり時間をつかったそうですが、セッション内では具体的なお話しはありませんでした。(どんな感じで行ったか興味があったんですが。。)

接続の面でいうと、何を接続したかというと、

例えば牛乳のパッケージは、牛乳という液体と多くの人を間でつないでいます。そこには名前があり、入れ物があり、パッケージデザインがあり、広告があって、間がつながれる。グラフィックデザインでスキルを身につけたわけですが、そのスキルを何に使ったってかまわないんじゃないかと若い時から思ってきました

https://intojapanwaraku.com/rock/art-rock/201725/

とご本人が別のインタビューで語っていました。

長くなりましたが、別においしい牛乳を販売したいわけではないんです!!
「デザインは「間(あいだ)」を適切に繋ぐこと」
という佐藤さんのデザインへの考え方を踏まえて、ここから本題へ

【本題】デザインの自由とは?


僕は全く佐藤さんの信者ではないんですが、今日のセッションでかなり納得できたことがありました。それは、

「デザインに自由はない」が「デザイナーは自由」であるべき

というものです。

この発言の意図は、

デザインに自由はない:条件、環境、予算、意図が限られた中で行う必要がある

デザイナーは自由であるべき:行くべき方向へ行ける状態にしておく

という言葉に集約されていましたね。

好きな方向に行くのが自由じゃないの?と思う方もいるかもしれませんが、

好きな方向に行くとどうなるか?
→スタイルが形成される
→あの人はそういう人なんだ。と思われる。
→依頼が来た際に自分のスタイルに引っ張られる(そもそも依頼が来ない)
→正しい「接続」ができなくなる

それは佐藤卓さんにとって、「自由」ではない!というものでした。

「やるべきことをやる」事がデザイナー本来の仕事。あらゆる技術を身に着ける。逆に嫌い、不得意な所を補う。どんな方向から依頼が来ても、「適切に」繋げる状態にする。それがプロである。

という佐藤卓さんのプロの意識は学んでいかなければいけないなと。

デザインは「間(あいだ)」を適切に繋ぐこと

佐藤卓さん自身は新しいことをしていなくて、既にあるものをどうつなぐか?を考えている。つなぎ方は新しいかもしれない。それを見つけるようにデザインしている。と言われていましたね。

「繋ぐこと」、僕は凄くいい考え方だと思っています。
コミュニケーションの面でも、
「ユーザー」
「クライアント」
「エンジニア」
「他のデザイナー」
「各ステークホルダー」
など関わる人との関係性を「繋ぐ」こともデザイナーの仕事なんだと最近感じています。(ファシリテーション難しい。もっと精進しないと。。)

5、6年前に本を読んでいた当時は、佐藤さんの「繋ぐ」という言葉にピンと来ていなかったのでですが、UXデザインを学びながら仕事をしていくうちに、
・「ユーザーや個人」と「企業・サービス・プロダクト」をつないだり、
・「今」と「未来」をつないだり、
・「大人」と「子供」をつないだり、
その仕組みを考えたり、アウトプットしていくのもデザイナーの役割であると考えたときに、今回のセッションは自分の中で学びの多いものでした。

デザイナー全員に対して必要な考え方かどうかは分かりませんが、今後持っていて損はない考え方だと思います。

まとめ


今回の「DesignShip2023」は各セッションであまり深掘りしない事が多いのですが、新しい情報や、新たな視点を取り入れる意味では参考になるカンファレンスだと思います。

もっと技術的なこと知りたいんだけど!!という方にはあまりお勧めできませんが、デザイナーとして幅広い活躍をして行きたい方にはおススメです。

明日(10月1日)まで開催されているので、興味がある方は是非。

それでは次の記事でお会いしましょう!

皆様のよきデザインライフを!!


佐藤 卓:グラフィックデザイナー

1979年東京藝術大学デザイン科卒業、81年同大学院修了。株式会社電通を経て、84年独立。株式会社TSDO代表。公益社団法人日本グラフィックデザイン協会(JAGDA)会長。「ロッテ キシリトールガム」「明治おいしい牛乳」のパッケージデザイン、ポスターのグラフィック、商品や施設のブランディング、企業のCIを中心に活動。NHK Eテレ「デザインあ」「デザインあneo」総合指導、21_21 DESIGN SIGHT館長を務め、展覧会も多数企画・開催。著書に『塑する思考』(新潮社)、『マークの本』(紀伊國屋書店)、『Just Enough Design』(Chronicle Books)など。毎日デザイン賞、芸術選奨文部科学大臣賞、紫綬褒章他受賞。

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