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幼い頃の事だ。 あの日、遊びに出かけた僕は迷子になってしまい、日の暮れた町の中で泣きながら歩いていた。お腹すいた、家に帰りたい、でも家がどこかわからない。そんなような気持ちで涙を流していたと思う。 するとそこへ、知らない男性が話しかけてきたのだ。 「おい坊主、お前もしかして、アイツの息子か?」 男性は、僕の父の名を言った。それから、少し考えるような思い出すようなそぶりをしてから、僕自身の名を口にした。 僕は頷いた。 「迷子か?」 再び頷いた。 「そうか。まぁ、そん
スーツを着て、家を出る。 駅まで歩く。 いつもどおりの出勤。しかし、何かが気にかかる。何かを忘れている気がする。 何か。 「あなた!」 背後から、声。 振り向くと、妻が駆けてくる。 「あなた、もう、お弁当忘れてる」 ああ。なるほど。これだったか。 礼を言って、受け取った弁当の包みを通勤鞄にしまう。 妻と別れ、改めて駅へ向かう。 ……しかし、まだ。 何かが、気にかかっている。やはりまだ何か、忘れているような気がする。 何かとても大事なものを……。 駅の