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#写真小説 ご覧ください、あの月を。 見事な三日月でしょう。しかし月が何故あのように欠けるのか、貴方はご存知でしょうか。なになに? ふぅむふむ、太陽と地球と月の位置関係が……? なるほど! つまり貴方は“真実”を知らぬ訳だ! お教えしましょう。あれはですね、魔女がいるからです。 真っ黒い服を着た魔女が、月に腰かけているのです。 魔女は……なんというか……ふくよかですからね。魔女の重みで月はべっこりと凹んでしまうのです。 それこそが、月の欠ける仕組みな訳ですよ。
俺は、沈んでいく。 水の中、ではない。ここは水の中ではない。俺は水に沈んでいる訳ではない。でもじゃあだったらここは一体どこだったろう。俺の周囲は白い。ただただ白い。まるで牛乳のような、夏の雲のような、真っ白な世界に俺はいる。ここはどこだ? 自分の体がふわふわと浮いているような感覚がある。沈んでいると思うのに浮いているとも思っている。果たしてどちらが正解なのだろうか。俺はどうなっている? なんだか記憶が曖昧だ。沈む前の事が(あるいは浮く前の事が)よく思い出せないのだ。俺
「逃げろ!」 その言葉を最後に、先輩は羊の群れに飲まれて消えた。 酷い人だった。いつも、面倒な仕事ばかり他人に押しつけて手柄だけ持って行く、嫌な人だった。僕はあの先輩の事が嫌いだった。……けれど、この数日間、ふたりで協力して羊から逃げ続けている内に、僕らの関係性は少しずつ変化していたのだ。 ねえ先輩。 あんたに僕を庇って犠牲になるような男らしさがあるなんて思いませんでしたよ。 普段からそういう感じでいてくれたら、良かったのに。 これからはちゃんと協力して仕事してい
#写真小説 朝の青い空に、白い月が浮かんでいる。 僕はあれを見る度に、ミルクキャンディーを思い出す。 青崎さんのくれたキャンディー。 青崎さんは中学の頃のクラスメイトだ。友達と呼べるほど親しかった訳ではないけれど、たまに会話する程度の関係。 あれは、早朝の教室での出来事だった。 あの日、職員室に用のあった僕は普段より早い時間に登校したのだが、すると静かな教室に青崎さんだけがいたのだ。ポケットからキャンディーを取り出し、舐めていた。学校でお菓子は禁止されていたのに