マガジンのカバー画像

掌編

60
ノンシリーズ掌編まとめ。
運営しているクリエイター

2023年9月の記事一覧

断片小説

「断片小説?」 「と、俺は呼んでいる」    ある日の夕方。  おつかいの帰り道、僕は、変な人を目撃した。  夏が終わってもまだ暑いのに、黒い長いコートを着ている、男の人。  彼の手には虫取り網。そして、足元にはノートが広げて置かれている。ノートが風で飛ばないようにか、四隅に石が乗せてある。何してんだろう……。  うーん。  不審者かな。  学校の先生に報告しないといけないやつかな。  なんて事を、僕が考えていた時だ。遠くの方から、何かが飛んできた。空をゆらりゆらりと飛ぶ様子

失敗作たち

 僕は同性愛者なのだけど、両親から「孫の顔が見たい」とせがまれており、まぁ、僕も子供は嫌いじゃないし、と考えて赤ちゃんを造る事にした。  泥をこねて人間の形をつくり、呪文を唱えて魂を入れる。  昔どこかで買って読んだ本によれば、これで人間が出来上がる……筈だったのに、何が駄目だったのか……どうにもうまくいかなかった。泥が、人の血肉にならない。  泥は泥のまま、産声をあげた。 「ぼぶうああ ぼぶうああ」  赤ちゃんの泣き声といえば「おぎゃあおぎゃあ」だと思っていた。実際にはこん

ゾンビの世界

 とある研究所から流出したウイルスが、世界をゾンビでいっぱいにした。   「おい、坊主、ここじゃないのか」 「そう……そうですね、ここ、ここだ……」  僕達の目の前には、ボロボロになった建物。経年劣化というよりは、人の手で破壊されたような感じ。多分ゾンビか、それに抵抗しようとした人間が暴れた痕跡だ。  なにしろここは、ゾンピパニックが起こった最初の場所。  件の研究所。 「やっと着いた……」  僕達はこの研究所を目指して、ずっと旅をしていた。ゾンビで溢れる悲惨な世界をなんとか