炎天下の外出という選択肢が消えた日
潰瘍性大腸炎という持病柄、脱水には気を付けるよう医者やネットでよく言われる。
命にかかわるし、点滴を行うにしても干からびた人間に点滴用の針を刺すのはなかなか大変だ。刺される側しか経験したことがないが、めちゃくちゃ痛い。自分の命を救ってくれる人間に対して、「痛えんだよバカヤロウ!」と暴言を吐きたくなるレベルで痛い。
その痛みを経験するのはごめんなので気をつけなきゃだよなあと思いつつ、病気になる前から水分をがぶ飲みするクセがあるからそこまで気にしなくてもええやろみたいなノリでいた。
今年の7月は病気になって初めて、入院のにの字の気配すら漂わない夏である。
去年や一昨年は、夏にもかかわらず電気毛布の中震えていたので開放感がすごい。
が、要は猛暑の世界と無縁の生活を送ってきたのである。
6月から7月上旬にかけてのバカみたいな気温の中、早々に夏バテを起こしグロッキーな日々を送っていた。
おなかの調子は悪くないものの、これはこれでキツイ。
メンタルの先生から、「バイトとか外で働くのは秋になってからがいいね」と言われた。
その日は車のクーラーが全く意味をなさないくらい暑い日だったため、秋っていつからのことを言ってるんだろうと思ってしまった。9月になっても30℃越えの日々が待っている気がしてならない。
基本的に暑い中外に出るのは自殺行為だと思っているので、クーラーのきいた部屋で日が沈むのを待ってから体力づくりのため散歩にくり出すという日々を送っていた。
ある日、ハンドソープの中身がなくなりそうだったので、詰め替えようと思ったらその詰め替えもなかった。ハンドソープがお友達である僕にとって、詰め替えを買いに行かないという選択肢はなかった。
朝9時、気温は30℃を超えているが許容範囲内だろうと思い、日傘装備で往復10分足らずの買い物をした。
それだけで熱中症になった。
症状自体は軽かったものの、その日は1日寝てるしかなかった。
僕の体はもうこの気温に耐えられないのだ……と悲しくなった。
とここで、そういえば朝ごはん食べないまま出かけたんだった、そりゃ熱中症になるわと一人納得した。
つまり、朝ごはんさえ食べればちょっとくらいの外出では熱中症は回避できるはず! と希望を見出したわけである。
数日後、家族が職場の近くに引っ越すため、その引っ越し作業を手伝うことになった。
朝ごはんをきっちり食べ、水分をしっかりとる。
この日もめちゃくちゃ暑く、前もって「役に立たなかったらごめん」と家族に謝っていた。
荷物は存外少なく、階段を10往復せずにすべてが運び終わった。
普段階段を上り下りしないため、体力的に不安だったが特に問題はなかった。
が、家に帰るとき症状が現れた。
お昼ご飯をあまり食べなかったため、お腹がすいていたのだが何も食べる気が起きない。微妙に気持ち悪い。眠い。
猛暑日のため、車のクーラーも利きがイマイチで日光がさんさんと攻撃してくる。
死ぬことはないだろうけど、家に帰ったら即ベッドだな……と寝て起きてを繰り返しながら家に着いた。
結果的には、家のクーラーをガンガン利かせてアイスを食べたら治った。
冷やすって大事なんだなあと思いつつ、今日の行動を振り返ってみる。
朝ごはんは食べた。
荷物の運び出しはしたけれど、大部分をクーラーの利いた場所で過ごした。
家族の倍水分を取った。
にもかかわらず症状が出たのが自分だけとなると、もう真面目に夏は引きこもりになるしかない。
お昼は近場のファミレスで食べたのだが、馬鹿みたいに塩辛く感じだ。
家族と外食って味が濃いよねという話になったが、多分あの時点で脱水が起こっていたのだと思う。
脱水症状も極まると経口補水液がおいしく感じるのと同じ原理で塩タブレットが味の濃さのあまり食べられなくなる。
まさにその現象だ。
家で薄味の料理ばかり食べていたから気付けなかった。
この体では日中コンビニにも行けないなんて、入院中よりも行動が制限されているようなものだ(病院は院内にあるため)。
でもごはんの自由はきくから家のほうがマシっちゃマシか。
もう家猫よろしく優雅に引きこもりを極めるしかない。
暑い日に何かするのムリ! ついでに引っ越し作業後数日ベッドで過ごすハメになったから、連続で立ち仕事もムリ!
肉体労働が無理だから真面目に在宅ワークで食えるようにならなければと決意した日でもあった。
がんばろ。