見出し画像

「社内プレゼンを制覇せよ!」その3ストーリー編 〜「本当にマーケットあるの?」〜

はじめに:革新の壁に立ち向かう

「本当にマーケットがあるの?売れるの?」

私が初めて新規事業の提案をしたとき、会議室の空気が凍りついたのを今でも鮮明に覚えています。
その一言で、何ヶ月もかけて準備したプレゼンが一瞬にして崩れ去りそうになりました。

この経験は、多くの社内起業家が共感できるものではないでしょうか。

この記事「社内プレゼンを制覇せよ!」シリーズ3では、MOONSHOT WORKS株式会社で70以上の新規事業立ち上げに関わってきた経験を基に、この「見えない壁」を突破するためのストーリーで語る実践的な戦略をお伝えします。

ぜひシリーズ1の資料編シリーズ2のコミュニケーション編も併せて参考にしてみてください。




1. 「マーケットの罠」を理解する

あるある事例:エビデンス集めの落とし穴

Aさんは、画期的なIoTデバイスのアイデアを持っていました。しかし、「マーケットがあるの?」という質問に直面し、必死にネット調査でエビデンスを集めました。

確かに稟議は通過しましたが、結果として新規性を失った、ありきたりな製品企画になってしまったのです。

市場調査を重ね、既存の植物性食品市場のデータを集めましたが、結果として他社の製品と大差ない企画になってしまいました。

本来の革新的なアイデアは、データ重視のアプローチによって薄められてしまったのです。

解説:新規性とエビデンスのジレンマ

新規事業において、「本当に売れるかわかっている」ものはもはや新規事業ではありません。

不確実性こそが新規事業の本質なのです。

しかし、多くの企業では「既存事業も掛け持ちの方」が審査を行うため、このジレンマが生じます。

2. パラダイムシフト:アイデアから「型」へ

新たなアプローチ:「型」と「プロセス」の提示

重要なのは、個別のアイデアではなく、「どんな事業に挑戦するのか」という全体像を理解してもらうことです。以下の2つの「型」を明確に区別して説明しましょう

既存市場参入型
「3年後にこの市場が1000億円規模になるから参入する」

新市場創造型
「現在市場はないが、新カテゴリを作り500億円規模にする」

少し前の話ですが、ある通信会社の山田さん(仮名)は、5G技術を活用した新サービスの提案で苦戦していました。

しかし、「新市場創造型」の視点を取り入れ、「現在は存在しない遠隔医療市場を3年で1000億円規模に成長させる」という提案に変更したところ、経営陣の関心を引くことに成功しました。

実践テクニック:プロセス重視のプレゼンテーション

プレゼンテーションでは、以下のような要素を盛り込みましょう:

  • 市場調査の具体的方法(例:100人へのインタビュー計画)

  • 顧客ニーズの検証プロセス(例:MVPテストの3段階計画)

  • プロトタイプの開発サイクル(例:2週間スプリントでの反復)

  • スケールアップの戦略(例:初年度100店舗、3年で1000店舗展開)

3. 審査者の心を動かす戦略

心理学的アプローチ:不確実性を味方につける

審査者の多くは、不確実性を恐れています。しかし、適切に提示すれば、それは強力な武器になります。

フレーミング効果の活用
「90%の新規事業が失敗する中、私たちは30%の成功確率を目指します」

アンカリング効果の利用
「1000億円市場の1%獲得でも10億円の事業になります」

社会的証明の提示
「同様のアプローチでAmazonも始まりました」

例えば、ある製造業の鈴木さんは、新素材開発プロジェクトの提案で、「失敗の可能性は高いが、成功時の利益は莫大」というフレーミングを用いました。

これにより、審査者たちのリスク認識を変え、プロジェクトの承認を得ることができました。


実践例:審査者を味方につける7つのストーリー

それではどの部分にストーリー性を持たせればいいのか?7つの部分についてみていきましょう

1.ビジョンとの整合性:会社としてやるべきビジネスだというストーリー
2.ストーリーテリング:没入できるような顧客の課題解決ストーリー
3.数字:小さく初めて大きく伸ばす。信頼かつ期待できるストーリー
4.リスク管理と期待を繋げる:想定されるリスクとその対策を予め提示しつつ、直後にうまくいった時の投資対効果をストーリーにする
5.成功事例の引用:類似の「挑戦」が成功したストーリーを示す
6.段階的なコミットメント:小規模な実験から始める計画のストーリー
7.審査者の参加促進:プロジェクトへの関与を促すストーリー

4. ケーススタディ:稟議突破の実例


成功事例:B社の新規サービス立ち上げ

B社の若手リーダーである木村さん(仮名)は、AIを活用した教育サービスの提案が初回の審査で否決されたことに大きな挫折感を抱いていた。
「革新的なサービスだ」と自信を持っていたが、内容が漠然としていて審査員たちを納得させることができなかった。しかし、ここで諦める木村ではない。
彼は再提案の準備に奔走し、まず市場調査に深く没頭した。会議室で審査員の前に立った木村は、EdTech市場が2025年までに1兆円規模に成長し、その5%を自社が確実に獲得するという具体的なビジョンを力強く描いた。市場の「型」を鮮やかに示す彼の姿に、審査員たちの目が光る。
続いて、木村は3ヶ月で実施する3段階の顧客実験の具体的なプロセスを発表し、実行可能性を緻密に説明。彼の言葉には、以前とは違う確信があった。

そして最後に、競合参入のリスクを冷静に分析し、それに対抗する特許戦略を示すことで、リスクが障害ではなく、成長のための機会であることを強調した。
木村の再提案は、彼自身の成長とともに、チームの未来を切り開く一歩となった。

失敗から学ぶ:C社のピットフォール

一方、C社の事例では、革新的なアイデアがありながら、以下の理由で承認を得られませんでした:

1.エビデンス偏重
既存市場データのみに頼った提案

2.プロセス不在
具体的な検証ステップが示されていない

3.オールオアナッシング
段階的な実験計画がない

4.リスク軽視
想定されるリスクへの言及がない

例えば、C社の高橋さん(仮名)は、新しい決済システムの提案を行いましたが、既存の決済市場のデータばかりを強調し、新システムの独自性や段階的な導入計画について具体的な説明がありませんでした。

結果として、審査者たちは「なぜ今このシステムが必要なのか」という本質的な疑問に答えられず、提案は却下されてしまいました。

5. 実践ツール:稟議突破のためのチェックリスト


以下のチェックリストを活用し、プレゼンテーションの完成度を高めましょう:

  1. 事業の「型」が明確か

  2. 具体的な検証プロセスが示されているか

  3. 段階的なマイルストーンが設定されているか

  4. リスクとその対策が明示されているか

  5. 成功事例や類似事例が引用されているか

  6. 審査者の参加を促す仕組みがあるか

  7. 数字は適切で信頼できるものか

  8. ストーリーテリングを活用しているか

  9. 段階的なコミットメント計画があるか


結論:新規事業提案の本質を捉える

「本当にマーケットがあるの?」という問いは、新規事業の提案において避けて通れません。

しかし、この質問に対する答えは、既存のデータや市場調査だけでは得られないことが多いのです。

重要なのは、不確実性を認識しつつも、それを体系的に検証し、事業化していくプロセスを示すことです。「わからないから検証する」という姿勢こそが、真の意味での新規事業開発なのです。

革新的なアイデアを持つ社内起業家の皆さんが、社内の壁を乗り越え、新たな価値を創造していくことを心から願っています。


皆さんの挑戦が、次の大きなイノベーションを生み出すかもしれません。勇気を持って、一歩を踏み出しましょう。



いいなと思ったら応援しよう!