金賞おじさん

 スーパーで買い物をしているときに、ある商品の「金賞受賞」という宣伝文句を見て、僕は「最近は何でも金賞だな」と大きな声で笑った。友人も笑った。「金賞の価値も落ちたもんだ」
 その夜、ふと暗闇で目を覚ますと枕元に金賞おじさんが立っていた。
「金賞を馬鹿にしたな」とおじさんは言った。「今日のお昼に」
「し、してませんよ」と僕は何度も息を飲み込んだり吐いたりした末に絞り出した。「金賞を馬鹿になんかしてません」
「した」と金賞おじさんは言った。「したよ」
 長い沈黙がおりた。僕とおじさんの睨み合いが続いた。でも、おじさんの目はよく見ると優しかった。
「僕は悲しいんだよ」とおじさんは言った。「金賞をとったのに、それで馬鹿にされるなんて。一生懸命にとった一等賞を、笑われるなんて、ほんとに悲しいことなんだよ」
 僕はしばらくじっと目を閉じて考えてから言った。
「確かに、ちゃんと人の気持ちを考えない軽率な発言だったと思います。馬鹿にしてしまった。申し訳ありませんでした」
「わかってくれたならいいんだ。ありがとう」
 目を開けたときには、もう金賞おじさんの姿はなかった。やっぱり、物事を簡単に馬鹿にしちゃいけないんだ。ありがとう金賞おじさん。これからは、どんな金賞でも大事にしよう。僕はそう反省した。

もしよければお買い上げいただければ幸いです。今後のお店の増資、増築費用にします。