[小説・ユウとカオリの物語] ユウの勇気 -ユウ目線 その3-
よりによってこんな日に会議とか。しかも終わってからみんないつまでしゃべってんだよ。でもまぁ、気を使ってくれてるんだよな、みんな。アイツ、僕と目も併せないし。気まずいのみんな気付いてんじゃねーか。どんな顔してここに居たらいいんだよ?……あ、だめだ、過呼吸になる......まずい。
「すんません、ちょっと腹痛いんでトイレ行ってきます......」
「え?ユウくん、大丈夫なの?さっきより顔色、悪いわよ?」
「リノさん、ありがとうございます。大丈夫っす。ちょっと冷えただけだと思いますから」
「そお?気を付けてね。あ、私達もう少ししたら帰るからさ。ごゆっくりね~」
「あははは。お疲れ様です」
場の空気感と、この後のこと考えたらもう、居ても立っても居られなくなってトイレに逃げ込んだ。荒くなり始めた呼吸が整うまでここでじっとしておこう。
リノさんにはこの経緯話してたからな。気遣ってくれてんだ。だけどリノさん、本当はアイツのこと好きだからな。僕のこと、許してないと思うんだよな。色々気遣いはしてくれたけど、ホントはどうなんだか......それにこの前社長も言ってたけど、アイツは人望が厚い。ほんと、人気者なんだよな。少し先輩のアイツは、仕事もできるし、とにかく面倒見がいい。そんなアイツに憧れて、アイツみたいになりたかったんだよ。だけど僕はそんなアイツを裏切ったんだ。あんなやり方で。アイツの悪口なんか書いたってさ、結局みんなアイツの味方なんだよな。あぁ、もうここには居られないよな。みんな敵に見えて恐いんだよ。どうしよう。やっぱり怖いな。逃げたいよ。
呼吸は落ち着いてきたけれど、震えが止まらなかった。トイレの便器に座って頭を抱えて小さくなっていたら、ふと、カオリさんの声が聴こえた気がした。
「大丈夫よ」
あの時のカオリさんの言葉だ。ずっと胸にある、カオリさんがくれたアドバイス。
「きついことを言われると思うけど、全部受け止めずにひたすら謝ることよ」
「え?言われたことは受け止めなくていいってことですか?」
「そうよ。会話はキャッチボール。お互い、受け取れるボールを投げ合うからキャッチボールができるのでしょう?それができない相手が投げる剛速球……受け取れないボールなんて……避ければいいのよ。だってあなたが怪我するじゃない。避けていいのよ。そう、イメージしながら話を聴いて。そしてひたすら謝るのよ。あなたは自分を守って良いの」
そうだ。そうだった。衝撃を受けた言葉だったんだ。そして僕に力をくれた言葉だった。僕はイメージ力には自信があるんだ。よし。いつまでこんなところで小さくなってるんだ。大丈夫だ。行こう!
「すみません、お待たせしました。あ、皆さんもう帰ったんですね」
「あぁ、帰ったよ。まぁ座れよ」
なるべく言い争いにならないように、対立にならないように、向かい合わせは避けて、僕は席を一つ開けて並んで座った。
「はい......」
「今日はどんなつもりで来たんだ?まずそれを聞かせろよ」
「僕がSNSで、してはいけない事をしたと思っています。それを謝りたくて。本当に申し訳ありませんでした。ごめんなさい」
「なんであんなことを書いたんだよ?俺、お前の事は随分と面倒みてきたよな?大事な仕事を任せてもらえた時にお前が突然、やっぱりできません、とか投げ出すこと言いだして、あの時俺がどれだけ神経すり減らしたと思ってる?わかってんのか?結局やり遂げれるようにもしてやっただろ?俺はとにかく、この仕事をお前がやり遂げれるまで、俺は投げ出さない、そう決めて付き合ってたんだよ。どんだけお前、俺に依存してきたんだよ。俺だってお前にずっと依存されてしんどかったよ。だけど投げ出さずに付き合ってたんだよ。で、その仕打ちがあれか??」
「アキラさんには、本当に感謝しています。アキラさんがシゲトくんのことをバカにしたようなことを言ってるのをずっと聞いていて、いたたまれなかったんです。だってシゲトくん、アキラさんに憧れていて、僕にもすごくアキラさんのことを褒めてくるんですよ。シゲトくんが僕に、良くしてもらってるアキラさんには絶対迷惑かけちゃいけないよって。すごく言ってくるんですよ。それで、もう何が何だか……腹がたってしまって。ごめんなさい。本当にごめんなさい」
「なるほどな、それであんなことをな。経緯はわかったよ」
そして2人でその後も色々と話し合った。キツイ言葉もたくさん言われた。そりゃそうだろう。逆の立場なら、そりゃそうだ。キツイこと言いたくもなるよな。だけど僕はカオリさんの言葉を胸に、言われた言葉を受け流しながら、とにかく謝った。やったこと自体は僕が悪いんだ。それだけは、心から謝った。だけどキツイと感じる言葉を受け止める必要なんてないんだ。
散々話して謝った後、僕は恐る恐る聞いてみた。
「僕はここに居てもいいんでしょうか。また、一緒に仕事してくれますか?」
「あぁ、もちろんだよ。俺からは声はかけないけどね。困ったことがあったら声かけてくれたらいいよ。今日は勇気を振り絞って、来てくれてありがとうな。話せてよかったよ」
僕は帰り道、あの時みたいにわんわんと泣きながら帰った。電車で誰も僕を見ないふりしてくれてた。わんわん泣きながら、心にあったのはカオリさんだ。カオリさんの、
「大丈夫よ」
その声が耳にリアルに聞こえてくるみたいだった。
僕、頑張ったよ。カオリさん、僕頑張ったんだよ。勇気、振り絞りましたから。もうヘトヘトですけどね。来週、笑って会いに行きますから。待っててくださいよ。
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