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ユウとカオリの物語

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LGBTQ+当事者カップルの2人が描く恋愛小説。ユウ目線でのお話と、カオリ目線のお話を2人で書きあっています。セクシャルマイノリティの世界ではない、ごく日常の中で出逢った2人の物…
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#パンセクシャル

第2章[第7話] 《ユウとカオリの物語 -ジェンダー編-》ユウの想い

前回話 カオリ目線のお話はこちら 第6話はこちら  初めて出逢った時の君は、ステンドグラスの光に照らされて、とっても寂しそうに微笑んでいた。「座りませんか」そう言って僕に微笑んだ君は、その寂しさを覆い隠すような、優しさに包まれていた。  気づけば僕は、暗い裏路地に突っ立っていた。あれ?僕なんでここにいるんだろう?ここはどうだろう?カオリ、どこ行っちゃったんだろう?道に迷ったのかな。僕を探しているだろうな。ん……?待てよ?……あ、ここ、覚えてるぞ。あっちの道をまっすぐ行っ

第2章[第6話] 《ユウとカオリの物語 -ジェンダー編-》

第5話はこちら 幸せのカタチなんてね、 100人いれば100通りあるわよ。 何が正しいのか、なんてのもね、 立場や環境が変われば、簡単に変わるのよ。 幸せも、正しさも、一つじゃない。  僕はこの日、仕事を定時に切り上げて、急ぎ足でとある場所に向かっていた。電車とバスを乗り継いだ後、はやる気持ちを抑えながらアーケードを急いだ。しばらく歩くと、カオリから聞いていた建物が見えて、僕はドキドキしながらエレベーターに乗った。エレベーターが開くと、そこにはカオリがニコニコしながら立っ

第2章[第5話] 《ユウとカオリの物語 -ジェンダー編-》

第4話はこちら 「胸なんてさ、朝起きてポロっと取れてたらいいんだよなぁ。手術しようとまで思わないしさ。あ、でもだからと言って男性の身体もいらなくない?ユウちゃんはどう思う?」 「そうそう!それめっちゃわかるな。僕はトランスでもないしさ、どっちつかずがあってもいいよね。そんなにバシっとどっちかに振り分けられないよ。僕らは中途半端でいいんじゃない?」 「あはは……中途半端かぁ、そうだよねぇ…...うん、中途半端な人間だって、いるんだよ!」  僕はふと、若い頃に仲良くしてい

第2章[第4話] 《ユウとカオリの物語 -ジェンダー編-》

第3話はこちら 「時々すごく男の子の顔になる時あるよね!おもしろーい」 昔片思いで好きだった女性に言われた言葉を、ふと思い出していた。男の子の顔の時、か......それはきっと、好きな人と話す時だったからだよな。あの時は深く考えてなかったけど、だったら女の子の顔の時もあったってことだよな。うん。でもそれが振られた原因になったんだよな。 あ、でも、そか、カオリが言ってたな。 「あなたは相手に合わせてきただけよ」 うん、そうだ。カオリに言われて気づいたんだった。 好きな

第2章 [第3話]《ユウとカオリの物語 -ジェンダー編-》

第2話はこちら だって子供でしょ。 子供時代の自分を、 子供扱いしてあげてよね。 ※ ※ ※ 通勤途中、最寄り駅までのいつもの田舎道。ここの風景が僕は大好きだ。 特に夏は、真っ青な空に浮かぶ動物みたいな雲を数えながら歩くと、揺れる青い稲が目の前一面に広がって、そこを抜けると大きな向日葵が僕を待っていてくれる。小さかったあの頃、僕を勇気付けてくれたあの道のあの風景みたいだからだ...... 幼稚園に入園した日僕は、母と離れるのが不安で1日中泣いていたのを今でも何故か覚え

第2章[第2話] 《ユウとカオリの物語 -ジェンダー編-》

第1話はこちら 相手に合わそうとしてきただけなのよね。 相手に合わせて生きてきたから、 気持ちを隠そうとしてしまうのね。 やっぱりわたし達、似た者同士なのね。  ※ ※ ※ それからも僕には幾人か、好きになった人はいた。だけどどれも片思いで、いつも言われるのは「友達じゃダメなの?」という言葉だった。「友達として失いたくない」とも、何度言われたことか。そしてその都度僕は、苦しみながらもその言葉を受け入れてきた。 その愛の種類が何でもいい。愛する人に、必要とされる人でいた

第2章[第1話]《ユウとカオリの物語-ジェンダー編-》

どんなユウも、わたしの好きなユウよ。 こんなに可愛い人がわたしを好きになってくれるなんて。 こんな幸せはないわよ。  ※ ※ ※ 僕はずっと子供の頃から、着ぐるみを着て生きてる気がしていた。 着ぐるみは何着も持っていて、その時々で周りの人たちが笑ってくれる着ぐるみに、僕は着替えるものだと思っていた。着ぐるみを脱ぐのは両親の前だけで、着ぐるみがないと他人とは接することができなかった。 10代の頃は色んな着ぐるみを試しては変えて、いつしかその中にいる本当の僕のことなんて、いっ

[小説・ユウとカオリの物語] 初めての幸せ │ユウ目線12話

※前回はカオリ目線のこちら  僕はとっても心地いい夢を見ていた。カオリが僕をぎゅっと抱きしめて、頭を撫でながら鼻歌を歌ってる。なんの歌だろう?あぁ、早くキスしてくれないかなぁ... 「唇、伸びてるわよユウ......どんな夢見てるのかしら?」  頭をポンポンされてびっくりした。あ、また寝ちゃってたんだ僕。 「あ、ごめん、マジで寝ちゃってた」  起きると僕ら以外のお客さんは誰もいなくなっていた。 「あれ?もう閉店?僕、結構寝ちゃってた?え、もしかして変な顔してたの僕!?」

[小説・ユウとカオリの物語] 月はずっと綺麗でした │ユウ目線11話

 あの日の僕は、仕事でとても疲れていた。以前カオリさんが「魔の5時過ぎね」と言って笑いながら教えてくれたんだけど、僕はいつも夕方5時過ぎになると、疲れたとかしんどいですとか、憂鬱なLINEを送ってるみたいで。あの日も僕は夕方、カオリさんに何度もLINEしてしまっていた。 「あぁ......もう嫌われてるかもな......だれもあんなメッセージ送ってこられて、嬉しかないよ。ダメだな、僕。なんでこうなんだろ。カオリさんは、面白いわよって笑ってくれてたけど、きっといつか嫌がられる

[小説・ユウとカオリの物語] 自己紹介 │番外編

 どうも、ユウです。とうとう僕の告白まで来ましたね。カオリに1度振られた時は、実は一晩だけ落ち込みましたけどね。「マゼンタと青」のおかげで翌朝には前向きになってました笑 だってそれって恋の色じゃん!みたいな!だけどなぁ、愛の色はマゼンタと青、だなんてさ!その愛情表現がサピオセクシャル的にはもう、胸を打ち抜かれた感じがしたんだよ。うんうん。あ、サピオセクについてはまた、追々書いていこうと思いますね!  でね!カオリの素性がわかったところで!今日は僕とカオリの自己紹介を書いてお

[小説・ユウとカオリの物語] 告白 │ユウ目線10話

恋愛はもう、やりきったの......  カオリさんの突然のカミングアウトに僕が、「知ってましたよ」と言った時のカオリさんは、とてもびっくりしていた。そしてこの前のレッスンの日も、種明かしで「ノンケの人はノンケって言わないですよね~」なんて僕が言って、2人で大笑いをした。カオリさんとはあれからもそんな、穏やかな優しい関係が続いてる。だけど...... 傷つく覚悟、か......  僕はカオリさんが言ったその言葉がずっと、心から離れなかった。カオリさんはずっと僕を気にかけて

[小説・ユウとカオリの物語] カミングアウト │ユウ目線9話

「実はわたし、LGBTQ当事者なの。パンセクシャルってやつかな。恋愛において男女の区別がある感覚がわからない」 「......えぇ、知ってましたよ」  僕がカオリさんのところに、プログラミングの勉強に通いだしてからしばらくした頃のこと。あの約束の日にカミングアウトしていた僕は、レッスン後の雑談の中でいつしか、過去の恋愛のことや、今の自分のジェンダーに対する葛藤の話なんかを、なんでも話すようになっていて。あの日も、昔一度だけ付き合ったことのある彼女の話をしていた。 「僕は