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Road to Nowhere : ユートピアは客席を越えて(『アメリカン・ユートピア』 )
デイヴィッド・バーンもトーキング・ヘッズも、いつかどこかで名前を聞いたくらいにしか覚えがなかった。けれども、渋谷のシネクイントでこの映画を文字どおり「浴びて」からというもの、僕のアップルミュージックのプレイリストは彼の曲で埋まってしまったというわけだ。
冒頭、舞台に一人で登場したバーンは、奇妙な脳みその模型を抱えながら観客に語りかけるように歌い始める。そしてショーが進むにつれ、舞台上には徐々にバ
「マンキウィッツ」という名の鳥ははばたく(デヴィッド・フィンチャー『Mank マンク』 )
たとえば同じ一本の映画だとしても、その背後に隠されたストーリーを知ることで作品の見え方がまったく変わってしまうということがある。この映画を観るまで、僕にとってオーソン・ウェルズの『市民ケーン』はいわゆる「映画史に残る名作」でしかなかった。けれどもその脚本を描いたマンクウィッツのストーリーを知ったがさいご、『市民ケーン』は僕にとって特別な作品に様変わりしてしまった。デヴィッド・フィンチャーの『Man
もっとみる「まなざし」から溢れ出るもの(大島渚『戦場のメリークリスマス』)
たった一つのシーン、そのたった一言のために、それ以外のすべてのシーンが存在しているんじゃないかと思える映画がある。大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』を観て僕はそうだと思った。
独房のラストシーン。処刑を翌日に控えたハラとロレンスがひと通りしゃべり終えると、無言になった二人の視線から逃れるようにカメラが頭上へと移動する。しばらくして立ち上がったロレンスは別れの言葉を口にし、ハラと顔を合わせるこ
ジム・ジャームッシュ『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984年)
学生時代に衝撃を受けた映画というのは、大人になってからもずっと特別な存在であり続けるものだ。僕にとってジム・ジャームッシュはその最たる例である。
「ジャームッシュが好き」と一口に言っても、『ストレンジャー・ザン・パラダイス』『ブロークン・フラワーズ』『ゴースト・ドッグ』『コーヒー&シガレッツ』『パターソン』あたりで好みが分かれるもので、かく言う僕は初期作品に漂う心地良い気だるさがたまらなく好きだ