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『ジェーン・エア』ローウッドでの出会い

大学の時に小説の内容はさらっていたので、映像版のジェーン・エアを初めて観た。

主人公ジェーンは孤児で、伯母とその家族に忌み嫌われローウッド寄宿学校へ送られた。
学校は劣悪な環境だったものの、ジェーンは勉学に才能を発揮する。その後、ソーンフィールド屋敷の住み込み家庭教師となったジェーンは、屋敷の主人ロチェスターと恋に落ちる。
しかし結婚式当日、ロチェスターには精神病の妻がいることが発覚。ジェーンは屋敷を飛び出してしまう。

私が今回観たのは、BBCがドラマとして作成したものである。

第一話。
私が割と好きなローウッドでの時間。
辛い時間の中にも救いを見出せる、他者とやりとりの美しさがものをいうパートである。
そしてその主軸は、主人公ジェーンの初めての友人、ヘレン・バーンズと、教師ミス・テンプルとの時間である。

しかし、ドラマの中でのヘレンとの時間は、本を一緒に読むシーンと、ヘレンが肺炎で死ぬシーン。

え、これだけ!?
ジェーンが罰を受けた後にテンプル先生とお夜食を分け合うあの神々しい場面もなかった。

ジェーンの愛すべき友人との物語はどこへ行ってしまったのか。

ヘレン・バーンズの生涯

ヘレン・バーンズは、寄宿学校ローウッドに入れられたジェーンが始めて会話した相手である。
信心深い少女で、ジェーンの矢継ぎ早な質問に答えたり、大勢の生徒の前で侮辱された彼女を優しく労ってくれる。

ジェーンが彼女を尊敬し愛しく思うようになったのは、彼女が類稀な知性の持ち主だったからである。
ミス・テンプルと夜食を分け合った日、ヘレンは自然、民族など多様な話題について先生と対等に話し合う。そしてラテン語の書物まで訳してみせる。
その雄弁さは、「生き急いでいる」と思わせるほど。

しかし、このように博識で聡明であるにもかかわらず、自らの至らなさを常に認め、教師からの罰を受けることに何ら疑問を持たない。
このような姿を見て、むしろジェーンは、

どのような困難にあっても、私の進む道を切りひらいていこうと決心した。
ジェーン・エア(上)/新潮文庫

ミス・テンプルとの別離

テンプル先生は、ジェーンが家庭教師を目指すにあたって多大な影響をもたらした人物だ。体罰の蔓延しているローウッドの教師たちの中で、1番温かい心を持った人物である。

ジェーンが家庭教師として広告を出す決断をしたのは、このテンプル先生が結婚によってローウッドを離れたことが大きい。テンプル先生との別離は、ジェーンにとって、

心の支柱を引っこ抜かれたというよりも、むしろ行動の意欲の源泉がなくなってしまったような感じだった。
ジェーン・エア(上)/新潮文庫


ジェーンは自身と共鳴する人物をすっかりなくし、新たな居場所を探してソーンフィールドにやってくる。

ローウッドでの経験がもたらす効果

BBC版でのローウッドという場所は、ジェーンに家庭教師という役割を与え従兄弟との出会いへと繋いだ。
しかし、原作にあった、ローウッドでの他者との交流に関する情報はほぼ省かれている。そのために、ジェーンが人と心を通わす経験が乏しい女性のように見えている。

しかし実際は、ローウッドで生まれて初めて1人の人間として認められた後、心を通わした人々を失い、再度孤独に立ち返っている。だからこそ、ロチェスターとの関係を構築する過程に深みが出るのだと思う。

個人的に、ローウッドはジェーンが初めて受容される場であると思っていたから、さっと過ぎ去ってしまったことをかなり寂しく感じた。

ただ、名作を映像化するという試みにおいてジェーンの物語のどこに重きを置くか、これは制作陣の好みの問題であるし、どちらも良さがある。


映像版の良さは風景の再現度だと思う。

また、ジェーンとロチェスターが結ばれた直後の束の間の幸せな時間は、爽やかながら充足感に溢れている。
画面の色彩、音楽がその雰囲気を盛り上げ、前後の展開との鮮明な対比になっている。

原作でもアデルの陽気で可愛らしい姿はソーンフィールドにはミスマッチだが、それがそのまま再現されている。
彼女の異質さが目を引くアクセントになっている。

アデルはその後どうなったのだろうか、なんて考えてしまう。

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