誰も傷つけない言葉なんて存在しないけれど
「みんなもいずれ結婚して子どもができるんだけど、そしたら……」
会社の偉い人がある社内行事の挨拶でこう話し始めて、ちょっとびっくりしてしまった。
令和になってもまだ「結婚して子どもができる」ことを前提に人生の話をしてしまうのか……
偉い人はそれなりにいい話をしていたような気がしたけど、この一言が引っかかってその後の話はあんまり入ってこなかった。
この人にとっては、人はいずれ結婚して子どもができることが当たり前で、超スタンダードなのだろう。でも、大勢の人の前で話をするときにそれをさも当然のように話してしまうのは、少し危ないんじゃないかなと思ってしまった。生き方や考え方にかかわることは特に。
まぁ、そう思うのもわたしがそのスタンダードから外れた人間だからなんだけど。
わたしは現在独身で、結婚の予定も出産の予定もないし、今のところは希望もしていない。といっても生涯絶対独身!と決めているわけでもないから、もしいろいろなタイミングが合えばいつかはするかもしれないけれど。でも出産は持病があるからもし望んでも簡単には叶わないかもしれないなとは思っている…(だからあえて強く望んでいないというのはたぶんちょっとある)
そんな具合なので、わたしの人生において「結婚して子どもができる」ことは全然スタンダードではないのだ。
わたしの場合は自らの意志で選択していることだからまだいい。でももし結婚や出産を強く望んでいるけれど、何らかの理由でそれが叶わなくて悩んでいる人が聞いていたら…と考えるともやもやしてしまったのだった。(共感力が爆高なHSPなのですぐ空想上の他人の気持ちを勝手に妄想して勝手に落ち込んでしまう…)
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今の時代生涯独身の人なんて山ほどいるし、結婚して子どもを持つことが一般的な生き方とは決して言えないと思う。100人いたら100通りの生き方があって、結婚するのも子どもを持つのも数ある選択肢の中の一つだ。そしてその人が選んだ生き方は、誰かに否定されたり見下されたりしていいものじゃないはずなんだ。絶対に。
でも悲しいかな、令和になってもまだ自分と違う生き方や考え方を安易に否定して、呪いをかけてくる人間はゴロゴロ存在する。職場にも、家庭にも、田舎にも、都会にも。男性でも、女性でも。多様性という言葉が広く使われるようになった昨今だけど、やっぱりまだ現実はなかなかしんどい。しかも当人には少しも悪気がないし、なんなら良かれと思って言っているから本当に厄介だよね…はぁ。
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言葉を扱うことはすごくむずかしい。自分が何気なく発した言葉が、受け取る相手にとっては一瞬で刃物にもなる。
特に今の世の中はみんな通常よりピリピリしているし、しんどくなることも多い。大好きな人が自らこの世を去ってしまったなんていう思考が停止するほどショッキングなニュースまで普通に飛び込んでくるんだもの…そりゃ不安定にもなる。
だから今一度、一人ひとりが自分の中でスタンダードだと思っていることが他の人にとってもそうなのか、日頃から考えていなくちゃいけないと思う。常にちゃんと考えていないと、いつ不用意に大切な人を傷つけてしまうか分からない。
こうやってわたしが発信する言葉も、もしかしたら誰かを傷つけているかもしれないし、誰一人傷つけない言葉なんて存在しない。だからそんなことを考え出したら何も言えなくなってしまうのだけど…それでもやっぱり発言・発信する前に一度立ち止まって、向き合って考えることは必要だと思う。そんなふうに毎日ぐるぐる考えて、迷って、慎重に言葉を選びながら、わたしは今日も言葉を紡いでいる。
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