【取材した怪談話130】午後三時過ぎ

「何て言っていいか分からない、不思議な体験があります」と前置きして、雅史さんが教えてくれた話。

彼が通っていた高校は、最寄り駅がB駅だった。通学に電車は使わずに自宅からB駅までバスで行き、そこから徒歩で通学していた。

高校二年の五月のある日、午後三時過ぎ。
雅史さんは授業中に睡魔に襲われ、腕組みしながら居眠りをした。そして夢を見た。

夢の中で、彼は駅のホームに立って電車を待っている。妙なのは、駅員も乗客も全く見当たらないことだ。自分が居るホームにも反対側のホームにも、誰もいない。

そして彼は、線路に近いホームの端、ギリギリの場所に立っている。なんでこんな場所にいるんだろう、と思っていると──。

とん、と背中を押された感覚に続き、自分の身体が線路上に落下した。接地時の痛みは感じなかった。誰だよこんなことすんの、と、カっとなった矢先。

ふぁん

耳を劈(つんざ)く轟音とともに、自分に向かって電車が突進してくる。
電車は目の前に迫っている。
身体は動かない。
衝突直前。
びくん、と身体が波打って目覚めた。
びっしょりと、汗が噴き出していた。

厭な夢を見たな……と思いながらその後、下校した。最寄りのB駅に向かうと、駅の周りにパトカー二台、救急車三台、消防車四台がごった返していた。各車の赤色回転灯がフル稼働し、けたたましいサイレン音が鳴り響いている。近くに立っている警官に尋ねた。

「何かあったんですか」
「ご家族の方ですか?」
「え? 何があったかわかんないんですけど」
「じゃあ、ごめんなさい、今いろいろあって立入禁止なので。関係ないのであれば、離れていてください」

騒ぎの原因は不明のまま、いつもどおりバスに乗って帰宅した。

・・・

翌朝。朝食時、母親が悲痛な面持ちで口を開いた。

「隣のおじさんいるでしょ。昨日、亡くなったらしいよ」

<隣のおじさん>とは、隣家に住んでいた初老の男性だ。家族ぐるみで仲が良く、釣り好きの雅史さんの父親が釣ってきた鮮魚を持ち寄って一緒に庭でバーベキューなどをしていた。以前はアウトドア愛好者だったが、糖尿病を罹患してからは身体が不自由になっていることは知っていた。

「そうなんだ……糖尿病の悪化?」
「違うみたい。お葬式の日程教えてもらう時に、聞いてみるね」

・・・

その夜。母親が重い口調で教えてくれた。

「おじさん、昨日ね、電車に轢かれて亡くなったんだって」

母親によれば、次のような内容だった。

おじさんは、別の場所に住んでいる息子さんに会いに行った。タクシーでB駅に向かい、電車で移動するつもりだったらしい。身体が不自由なため、駅到着後は構内をかなりゆっくり歩いていた。

そして、電車が来た時にすぐに乗車できるように、彼はホームの端ぎりぎりに立った。ところが、電車を待っている時、他の客と接触してしまい、よろめいてホームに落下した。不運にもその直後に快速電車が入ってきて、亡くなったそうだ。

事故が発生した時刻は、午後三時過ぎだったという。

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