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【取材した怪談話143】夜間警備・病院

Jさんが警備会社に勤務していた頃、先輩男性から聞かされた体験談だそうだ。

先輩が夜間の病院に点検を担当した時のこと。その病院は夜間に無人となるため、夜勤の警備員が巡回点検することになっている。警備員の巡回は、一人で実施する。

夜の一時ごろ、先輩はその病院に到着した。真っ暗の大型の病院のため、点検場所を正確に把握できない。このような場合、警備会社の管理センターに連絡して病院内の各所に設置された監視カメラを遠隔操作で起動してもらうことになっている。センターに居る担当者がカメラに映し出される警備員の姿を確認しながら、携帯電話で指示して点検場所まで誘導するのだ。

管理センターの男性担当者に「次、三十メートル直進して右ね」など詳細な指示を出してもらいながら、真っ暗な病院の廊下を進んでいく。

指示に従って、先輩は目的の点検場所に到着した。手術室、ベッド等の所定箇所を点検し、誰も居ないことも確認した。点検完了後も、念のため出口まで再び誘導してもらうことになった。

病院の出口に向かい、暗がりの廊下を歩いている時だ。センターの担当者から、棘のある口調でこう伝えられた。

「お客さん居るんなら、ちゃんと報告しなきゃだめだよ」

担当者の言うとおり、もし自分以外に誰か居れば、その場で免許証などで身元を確認して報告する義務がある。しかし、今は自分ひとりだ。懐中電灯の光で周囲を照らしても、誰の姿も見当たらない。「お客さん」と言われても、意味が分からない。「何がですか」と強めに聞き返した。

「横に連れてる女の人だよ。お客さんなら報告してよ」
「誰も居ませんけど……」
「いやいや。お客さんだったら、外に出さないと」
「怖いこと言わないでくださいよう」
「画面に映ってるんだけど。一緒に歩いてるでしょ。身分証、確認したの?」

センターの担当者は、明らかにイラついている。
だが、居ないものは居ないとしか言いようがない。

腰が引けつつも歩を進めながら嚙み合わない会話を続けているうちに、廊下の曲がり角に到達した。この角は、カメラの死角だ。曲がる瞬間は先輩の姿はカメラから消え、曲がり終えると再び別のカメラに映し出される。彼がその角を曲がった時、センター担当者から電話越しに訊かれた。

「あれ、さっきまで居た女性は? 居ないけど」
「だから最初から居ませんって」

・・・

この病院には、警備会社側の監視カメラとは別に、病院側が独自に用意した監視カメラも設置されていたため、それも念のため確認された。病院側カメラには警備員だけが映っており、女は全く映っていなかった。結局、異常なしで処理された。

センターの担当者によれば、カメラに映った女性は成人で、カジュアルな服装だったという。そのため、病院関係者ではなく「お客さん」と思ったそうだ。

ちなみに、監視カメラの映像は一定期間を経過すると消去される。女が映り込んだ映像も、いま現在では消去されている可能性が高いとのことである。

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