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【取材した怪談話127】邪魔

理恵さんが高校生だった頃、入院中の母親の見舞いに行った時のこと。

面会可能時間よりも少し早めに病院に到着したため、ひとりで待合室の椅子に座って待っていた。その日は、祖父と病院で合流する予定だった。

椅子に座っていた理恵さんは疲労を憶え、うつらうつらと眠気に襲われる。座ったまま、眠りに落ちてしまっていた。

「じゃーま」

自分の頭上から、抑揚のない乾いた女の声が聞こえるとともに意識が覚醒した。

あ、こんなところで眠ってたら邪魔になる。
早く、どかなきゃ。

反射的にそう思ったものの、瞼は開かず、身体も動かない。
目は閉じたままだが、その声の主は自分の目の前に立っている気配を感じる。

状況が把握できないでいると、さらに別の誰かが自分に接近してきて立ち止まった気配がした。
今度は、若い男の冷たい声が降ってきた。

「じゃーま」

どうすることもできないうちに、次から次へと自分の周りに人が集まってくるのを感じた。依然として目は開かないが、気配で感じる。そして大勢の老若男女の無機質な声が、バラバラに自分に浴びせられた。

「じゃーま」
「じゃーま」
「じゃーま」
「じゃーま」

訳が分からず、固まってしまった時だった。

「こらッ。こんなところで寝るんじゃない!」

とたん、瞼が開き、身体が動いた。
目の前には、祖父がいた。

祖父以外、誰もいなかった。

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