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【取材した怪談話145】死神の部屋

「死神の部屋、というのがあるんです」

声を落としながら、Jさんは語り始めた。

彼の母親は看護師で、数年前に建てられた病院で勤務している。
その〈死神の部屋〉は、ある六人部屋の病室だそうだ。自力歩行が困難な高齢患者が割り当てられる病室だ。その病室の中には、個室トイレが設けられている。

「母が夜中に巡回する時、その病室の個室トイレの電灯が点いていることがあるみたいです。暗がりの中、トイレの扉の下の隙間からオレンジ色の光が漏れているのがすぐ分かるそうです」

そのトイレの電灯はセンサー式で、誰かがトイレに入室すると自動点灯し、退出すると自動消灯する。つまり、点灯時には誰かがトイレに入っていることになる。

「その病室に入院している患者さんは自力歩行できないので、部屋の中の個室トイレに一人で歩いて移動することはできないはずなんですよ」

不審に思いながら母親はそっと病室に入り、トイレの扉をゆっくりノックする。応答はない。扉を開けてみると、中には誰もいない。個室内を懐中電灯で照らしてみるが、何ら異常は見られない。

確認を終えた母親が扉を閉めると、自動消灯する。

「この出来事があったその日のうちに、その病室の入院患者六人の誰かが亡くなるそうです」

母親がその病院で働き出してから、少なくとも五人はこの現象が続いているという。

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