見出し画像

【実話怪談69】訴え

「長らく放っておいた人型の物には魂が宿っているかもしれないので、捨てる時にはご注意を」

そう戒めるのは、エステサロンを経営する女性Rさんだ。

彼女がサロンを開業するにあたり、知人が経営する美容院の2階を借りることになった。当時、2階は物置部屋として使われていたため、開業前に知人と一緒に片付けをしたそうだ。

片付け当日、ふたりでゴミの分別や掃除に勤しんだ。
物置部屋には、業務用の備品やカタログなどの資料の他、美容院に特有の物品が保管されていた。

マネキンである。
ヘアカット練習用の、頭部だけのものだ。

いくつかのマネキンが、所狭しと棚に並べられている。それらは練習用としての役割を終え、いくぶん毛髪が残った状態で長期間にわたり放置されていた様子だ。

美容師はそれらのマネキンをひとつひとつ手に取り、「これはワンレングス・カットの練習で使ったやつだな」、「こっちはアイロンの練習用だ」と懐かしみながら、ゴミに出すために分別していた。

滞りなく片付けが進行していく。その過程で、部屋の奥から銀色のビニール袋が姿を現した。これは何かな、と美容師がビニールの中の物を取り出すと、<おかしい>女型マネキンが出てきて、Rさんに見せたという。

「普通のマネキンは黒髪か茶髪で、目は印刷されているように見えるのですが、その<おかしい>マネキンは髪色がシルバーで、目玉が飛び出て見えました。

ビー玉を半分にしたような、3Dで立体感のある眼球です。トリックアートにある、どこから見ても目が合うような錯覚みたいに、ずっと見られている感じ。

そのマネキンと目が合った瞬間、すごい恐怖感が湧き上がって、時が止まった感じになりました。全身が硬直して、息も吸えなくなったんです。一瞬なのに、とても長い時間に感じました」

これヤバい。
強力すぎる。

やっとの思いで目線を外すことができ、Rさんは美容師に「これはヤバい。絶対に捨てて」と強めの口調で伝えた。実は彼女は霊感があり、美容師もそれを知っていたため、すぐに理解してくれたそうだ。

全てのマネキンをゴミ袋に放り込み、片付けの最後に店の入口近くのゴミ置き場に出した。嫌なことがあったものの、スッキリしたという爽快感を覚えながら、その日は帰宅した。

・・・

翌日、Rさんが美容院に到着したとき、ぎょっとして立ち尽くしてしまった。前日に出したゴミ袋は全て回収されていたのだが、そのゴミ袋を置いた場所いちめんに、意味不明の文字のような落書きがびっしりと残されていたからだ。

美容院入口の前には壁と段差があり、マネキンを廃棄した辺りの壁面と地面にその落書きは描かれていた。黒色のスプレーで描かれていた印象だ。文字は、何語だとすぐに解るような文字ではなく、文字か記号かの判別も難しかったという。文字の形状は、ハッキリとは覚えていないそうだ。

画像1

※Rさんに描いていただいたイラスト。黒く囲った辺り一面に、文字か記号かも解らない意味不明の落書きがびっしりと残されていた。

落書きを目の当たりにした美容師は、「ひどいイタズラだなあ」と口を尖らせていた。だがRさんは、前日に処分したマネキンが最後になにかを訴えてきたのでないか、捨てることを怒ったのでないか、と感じてゾッとしたそうだ。

・・・

Rさんの知人に、彼女と同様に「視える」人物がおり、後日この話をすると「目が合ったのに、供養しないで捨てたためにお怒りになったのだろう」と指摘されたとのことである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?