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【実話怪談28】人の姿

あるタクシードライバーが、京都府の長岡京市郊外をタクシーで客を乗せずに夜間走行しているとき。

ヘッドライトのハイビームを照らしながら、竹藪に沿った直線道路を車で走っていると、前方に人の姿が映し出された。
ライトの光が届くギリギリの距離、車の約百メートル先に見える。

上下とも白い服装で、大人だと思われるが男女の区別や年齢の判別はできない。道路の真ん中に立っているように見えた。おそらくこちらを向いているが、ハッキリとはわからない。なにかトラブルで助けを求めているとか、手を振ったりしてアクションを起こしている様子もない。「気を付け」のような姿勢で、直立不動を保っている。

人がおるがな。
何してるんや。
まあ、こっちが近づけば端に避けるやろう。

そんなことを考えながら、念のためクラクションを鳴らす心構えをしてそのまま運転を続けた。
が、数秒後、彼は違和感をおぼえた。

自分は運転して前進しているにもかかわらず、目に映るその人物の大きさが最初に現れたときから変わらないのだ。

なんや、あれ。
距離が縮まらへんやんか。
車と同じ速度で同じ方向に移動してるんかいな。
いや、そないなわけあらへんやろ。
そもそも動いとる感じしいへんし。
人ちゃうくて交通整理の人形か看板か? にしても距離変わらんの変やろ。
な、なんや、あれ……。

直立不動という姿勢の良さが、不気味さを増幅する。
だが、なぜか目が離せない。
固唾を飲む。
ハンドルを握る手に、力が入る。

進めども進めども、目の前の人物との距離は一向に変わらない。

そして--。竹藪のエリアを抜けたとき、その人の姿は忽然と消えた。まるで、黒板消しで掻き消されたかのようだった。

時間にして、数十秒程度の出来事である。

そんな経験は、一度きり。その人が現れた場所も、特にいわくのある場所でもなく、近くに心霊スポットがあるわけでもない。
結局、その人は何だったのか、本当に人だったのか、いっさい不明だそうだ。

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