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【実話怪談25】筑波山②(茨城)

※「筑波山①」と同じ筑波山が舞台ですが、別人の話です。

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大学生A君は夏休みの夜、友人2人と茨城の筑波山にドライブに行った。友達が運転し、A君は助手席に座り、もうひとりの友人は後部座席に座っていた。

誰も道を知らなかったため、カーナビに適当な山上の目的地を入力して、指示に従って進んでいく。男子学生が3人揃えば、車中では他愛のないバカ話に花が咲くのは必至だった。

しかし、ナビに従っているにもかかわらず、行き止まりに着いてしまい、停車を余儀なくされる。

「しょうがねぇなぁ。けっこう運転したし、外で一服してくるわ」

「俺も」

友達ふたりが車外に出た。タバコを吸わないA君は、助手席に残ってスマホをいじり時間を潰すことにした。

何分か経った後、友達らが車に戻ってくる。

が、ふたりとも明らかに何かに怯えている様子だった。暗がりのなかでも、ハッキリと解るくらいだ。A君は何があったのか問い質したかったが、会話できる空気ではなかった。

運転手は無言で車を発進させ、来た道を引き返す。後部座席のもうひとりの友達も、うつむいたまま。行きの勢いとは対照的に、車内はお通夜の雰囲気だった。


山を降りて麓のコンビニの駐車場で運転手は車を停め、ぽつりと呟いた。

「………窓」

「は?」

運転手の友人が、運転席側の窓ガラスを顎で指し示す。

A君が運転席側の窓に目を凝らすと、友達らが怯えている理由を悟った。


手形。

いくつかの赤色の手形が、点在するように窓ガラスにべったり付着していた。人間の手形である。

「窓だけじゃない…。ドアにも付いてる…。これ呪いだよ…」

ハンドルにうなだれながら、消え入りそうな声で運転手が漏らした。

件の行き止まり地点に着くまでは、もちろん手形など存在しない。停車中、かつ友達らが車を離れた数分の間、つまりA君が車内にいる間に付着したとしか考えられない。

さらには、窓ガラスの内側から付けられたような手形もあった。

全身が総毛立ち、言葉が出なかった。

しかも、手形は付着して長期間経過したかの如く、こびり付いていたという。ティッシュで擦ったぐらいでは落ちそうにない。もっとも、たとえティッシュ越しでも手形に触れるのは厭だった。

とりあえず手形はそのままにして、翌日に洗車に出すことになった。その夜は、各々ひとりになるのが怖かったため、運転手の家で一緒に過ごすことにした。

その家に到着した際、A君が改めて車を見てみると、全ての手形は、車の右側の窓ガラスとドア部分だけに付着していた。助手席のA君が手形の存在に気付かなかったのは、これが理由だ。

そして運転手宅で、皆まんじりともせず夜を過ごした。


翌朝。

A君らが外に出て車を見ると、手形は全て消えていた。



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