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【取材した怪談236】心霊写真の正体

男性経営者のA氏と雑談している時、「新潟とか富山の怪談ってあるの?」と問われた。富山の寺家トンネルの体験談(心霊写真が関連する)を話したところ、「それで思い出したけど、俺も心霊写真の話あるわ」と言って話してくれたエピソードである。

彼が小学校高学年の頃の話だから、昭和後期の出来事だ。埼玉県内のキャンプ場で、学校行事として野外活動が一泊二日で行われた。キャンプ場での児童の様子は、教員らがフィルムカメラで写真に収めていた。デジタルカメラ等は普及していない時代である。

初日の夜、飯盒炊爨はんごうすいはんをしている合間にも、A氏は教員に一枚だけフラッシュ撮影してもらった。右手にお玉を上に向けて持ったA氏が、林の前に一人で立っている構図である。

野外活動の後日。
キャンプ場で撮影されたフィルム写真が、教室の壁にズラリと並べて展示された。展示会という側面もあるが、写真を児童が閲覧し、各々欲しい写真を選んで購入するためでもあった。一枚当たり50円だ。

壁に展示されている写真をA氏が一枚一枚見て周っていると、ある写真の前に他の児童らが群がった。

「この写真ヤバくない?」
「なんかヘンなもの写ってる」
「怖い……」

同級生の震えた声が重なって耳に入ってくる。
人をかき分けてA氏がその写真を見に行ってみると──、衆目を集めていたのは、自分の写真だった。林の前でお玉を持って写してもらった一枚だ。

「俺の左後ろの木の幹に、女の白い顔が浮かんでたんだよ。ちょうど俺の顔の真横ぐらいの位置で。たぶん大人で、わらってるように見えたな」

誰が見ても明らかに心霊写真だったが、自分ひとりで写っている写真が他になかったため、A氏はその写真を購入した。買ったはいいが、あまり見たくなかったため自室の学習机の引き出しに裏返して保管しておいた。

・・・

それから半年ぐらい経った頃。
細かいことは覚えていないが、A氏は公私ともに上手くいかない日を送っていた。そんな彼の頭にふと、ある考えがよぎる。

──もしかしたら、あの心霊写真のせいじゃないのか……

彼は自室の机の引き出しをそっと開け、件のフィルム写真をゆっくりと取り出した。およそ半年ぶりのご対面だ。

心臓がドキリと波打った。
写真の中の<顔>が、増えてるように見えたからだ。
最初に写っていた<顔>の上方に、もう1つの顔が浮かんでいる。
さらに、別の3本の木の幹にも、それぞれ1つか2つの顔が現れている。
合計で5~6個ぐらい、<顔>が増えている。

「親に相談してから、近所の寺に持ってった」とA氏は振り返る。

駆け込んだ寺院の住職はA氏が持参した写真を見るなり、「しばらく預からせてほしい。2週間後にまたおいで」と回答した。てっきり、すぐに処分してくれると思っていたので意外だった。

・・・

それから2週間後、再び寺院を訪れたA氏に住職はこう告げた。

「あの写真ね。他のお坊さん達と会議して話し合ったんだけど、結論としては心霊写真だった」

予想通りである一方、わざわざ会議まで開いてくれたのか、と少し驚いた。住職は続ける。

「ただね、写真に写ってるの、人間の霊じゃない。フクロウの霊だよ」

思いもよらぬ最後の一言を、A氏はすぐに飲み込めなかった。聞き間違いかとも思った。どう見ても人間の顔に見えるのだが、ともかく邪悪な写真ではないことを住職は伝えたいようだ。結局、その写真はお焚き上げしてもらった。

「まあ、子供の俺を怖がらせないようにフクロウの霊だなんて言ったのかもしれないけどな。写真の話はこれで終わりなんだけど……」

それから何十年か経ち、A氏は、とあるイラストレーターに自分の絵を描いてもらう機会に恵まれた。その際、背景にフクロウの絵も一緒に描かれたそうだ。そんな背景は依頼しておらず、イラストレーターが自分の裁量で「なんとなく」描いたらしい。

その後、とある革細工職人に革製ワッペンを作製してもらえることになった。図柄は完全にお任せで依頼したところ、フクロウの絵をモチーフにした品物が出来上がった。

「なんか、フクロウに縁があるよ」

カラカラと笑いながら、彼は話を締めた。

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