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【実話怪談2】狐憑き

「狐に憑かれたことがあるんです」

30代の経営者・真由美さんは、静かに口を開いた。

5年ほど前、職場からほど近いx神社へ参拝に行ったそうである。
その日以降、全身に激しい倦怠感を覚え、それが2週間ほど続いた。病院に行って診察を受けたが、特に異状は見られなかった。
さらに、それまで良好だった社内の人間関係も悪化しはじめる。

そんな折、霊視のできる知人Aとたまさか会う機会があった。開口一番、こう指摘される。
「憑いてる。狐が。どこか変な場所行ったでしょう」
「x神社ってところには行ったけど…」
「とにかく私じゃ対処できないから、お祓いしてもらったほうがいいよ」

真由美さんは藁にもすがる思いで、近所のお寺に駆け込んだ。
お祓いを受けるやいなや、身体中にまとわりついていた厭な重みがスッと抜け落ちた。
人間関係も徐々にではあるが、良好な状態に戻っていった。
その件以来、x神社には近づいていない。

それから5年の時が流れ、今年の元旦。
自室に在宅中、別の知人BからLINEで年始の挨拶とともに、プレゼントが届いた。LINEのトーク画面の背景を変更できる「着せ替え」もので、幸せを呼び込む開運を目的とする神社公認の品だった。
何の気なしにダウンロードすると、背景画面が更新された。

次の瞬間。
ずきん、と頭に刺すような痛みが走った。
呼吸も浅くなっていく。
たまらずスマホを投げ出し、外気を求めて逃げるように自室から飛び出た。

その着せ替え用の背景は、x神社の朱塗りの鳥居が映しだされた画像だった。

それから数日後。
さらに別の知人Cから、初詣のためにy神社に一緒に行ってほしいと連絡が来る。
そのy神社に同行した後、知人Cは唐突に

「今から、x神社にも行こうよ」

と満面の笑みで言い出す。
不意に「x神社」の名が出てドキリとした。
反射的に首を横にぶんぶん、と振り拒絶して、どうにか行かずにすんだそうだ。

知人BもCも、狐憑きの件は知り得ない。

「x神社に呼ばれてるんですかね」
不安げな表情を浮かべながら、真由美さんは呟いた。

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