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【人が怖い実話4】退去後の点検

不動産管理会社で勤務経験がある孝弘さんが体験した話。

彼の業務のひとつに、賃貸者退去後の部屋の点検という作業があった。家具・家電付きの物件のため、それらが入居前と同じ状態であるか、室内に新たな物理的な瑕疵がないか、等を調査する業務である。

その日、彼は都内のひとり暮らし物件の退去後点検に訪れた。家賃5万前後の細長い間取りの典型的なワンルームだ。午後の時間帯だったが、部屋は薄暗く、しんと静まりかえっていた。

押入れの引き戸をがらがらと開けた瞬間、彼は思わず腰を抜かして尻餅をついた。

「押入れの中に、婆さんが体育座りしてました。歳は60〜70代ぐらいかなあ。上下とも白色の寝巻きのような服装でした。皺だらけの虚ろな表情で目は開いてるのですが、僕を見ようともしませんでした。全く動かなかったから、死んでるのか生きてるのか、そもそも人間なのか幽霊なのかさえ解らなかったです」

床を這いずりながらどうにか部屋から飛び出て、上司に電話して状況を伝えた。その後は、警察と会社の別の人間がその部屋に急行して後処理したそうだ。

「後で聴いた話だと、その婆さん、その部屋に住んでた退去者で、生きてる人間でした。2つあるカードキーの1つを紛失したと言ってたらしんですが、実はこっそり所持して退去後も勝手に入室していたようです。もしかしたら次の入居者が決まった後にも、その鍵つかって部屋に入るつもりだったかも。まあ、玄関のドアのシリンダを替えるのでそれは無理ですけど。僕は前にどんな入居者がいたかを知らされてなかったので、ほんと心臓が止まりそうでした」

深い溜息をつき、孝弘さんは話し終えた。

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