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【怪談実話81】ギャン泣き

「会社の後輩が、飛び降り自殺しまして」

男性Aさんは、静かに切り出した。
その後輩はAさんと別の課に所属していた男性で、社内で少し会話を交わす程度の間柄だった。

彼が亡くなって1ヵ月ぐらい経った後、会社の先輩Bさんと彼の自殺の現場(会社からかなり離れた建物)を見に行くことになった。

Bさんは後輩と同じ課で、よく面倒を見ていたそうだ。
だが、後輩の葬儀は家族葬で、会社の人間は参列できなかった。ゆえに先輩としては、せめて現場を見ておきたいと思うに至ったらしい。

・・・

休日、Aさんが運転する車でBさんを拾って、自殺の現場に赴き、夕方頃に到着した。現場の建物付近で駐車できなかったため、少し離れた場所に車を停め、ふたりで車外に出て、手を合わせた。現場の建物や敷地に入ることもしなかった。

その後、Bさんを家に送り届けてからAさんは帰宅した。

「その夜、20時ぐらいかな。夕食を終えた後にリビングで家族でくつろいでいるとき、2歳の愛娘が急に泣き出したんです。大泣きしながら、リビングに隣接する和室の天井を指さしてました。なんか見えるの? と聞いてみましたが、ひたすら泣くばかりで。ギャン泣きというやつです。僕がひいてしまうほど尋常でない泣き方でした」

ギャン泣きは、およそ1分間にわたり続いたという。
虚空を指さして泣くことも、これほどの激しい嗚咽も、そのときが最初で最後だった。

「現場に行った日の夜だったので、連れて帰ってきちゃったんじゃないかと思ってゾッとしましたね。娘が成長した後、そのときのことを聞いてみたんですが、全く覚えてませんでした」

ちなみにBさんには、特に何も起こらなかったそうだ。

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