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【人が怖い実話15】防犯カメラを買いに来た女

「あのぅ。防犯カメラを探してるんだけど」

元家電量販店勤務の男性Sさんが販売員としてカメラ売り場を担当していたとき、60〜70代くらいの女性客が細い声をかけてきた。

彼女は一軒家でひとり暮らしをしているが、自宅の金品が紛失することが多いそうだ。最初は気の所為と思っていたが、紛失の頻度が尋常でないという。そこで空き巣を疑い、防犯カメラを求めて来店したようだった。

「確かに、泥棒かも知れませんね」
「でしょう。警察の人にドアの鍵交換してもらったから、大丈夫だと思ってたんだけど」
「えっ、警察が……何ですって」

彼女が言い間違えたと思い、Sさんは詳しく訊ねた。

「警察がウチに来てくれたことがあって。そのときに、このへんは物騒だからって言って、玄関のドアの、鍵を差し込むやつ(シリンダの事と思われる)を交換してくれて、新しい鍵もらったの」

言い間違いではなかったことを理解したNさんは、彼女に静かに伝えた。

「おばあちゃん、そいつが空き巣ですよ」

その空き巣(男性とのこと)は警官を名乗り、パトロールと称して何度か老女宅を訪れていた。そして同居人の有無、生活サイクル、貴重品の量・質、ドアの鍵の種類などを把握し、会話の様子から彼女を騙せると判断した上で玄関のドアの鍵を交換したようだった。
鍵交換自体は、プロの業者でなくても可能だそうだ。

その後は彼女の不在時に、空き巣自身も所持するその新しい鍵を使って玄関のドアから堂々と侵入して窃盗を繰り返していた。

調査力、観察力、対人折衝力、演技力、発想力、鍵交換のスキル、そして圧倒的大胆なメンタルを兼ね備えた手練手管の盗人と推定される。もはやルパン三世の域に達していると言っても差支えないだろう。

本物の警察に被害を届けるよう進言すると、彼女はぺこりと頭を下げてお礼を言って帰っていった。

それ以降、彼女が来店することはなかったため、事の顛末は不明だそうだ。

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