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【怪談実話109】ロッカー

Aさんには、看護師の友人Bさんがいる。
二十年以上前、Bさんは当時勤務していた病院で救急搬送の処置室に配属されていた。

「忙しいのは仕方ないけど、毎日、人の生き死にに関わるのは辛いわ。でもまだ新人やからワガママ言われへんねん。病棟勤務行きたいわぁ」

時折り電話で話すBさんの声からは、疲労感が伝わってきた。また当時の同僚に関しては、次のように話していた。

「同僚の看護師はみんな歳近いねん。一人は男の子なんやけど、オネェやねん」
「え? 面白そう!」
「そうでもないねん。見た目普通で、喋る時とか動きがオネェやねん。オネェを隠してへんねん。でも割と性格キツイし、特に面白いこともないねん」

・・・

その後(経過日数は不明)、Bさんから電話が掛かってきた。

「前に話したオネェの子なぁ、こないだ自殺してもおてん。前の日普通に一緒に仕事して、次の日出勤したら『あの子昨日の夜、家で自殺したんやって』って聞かされてん。私、なにか出来たかも知らんのに。悩んでることも知らんかったし。何かしてあげられへんかったんかなぁ……」
「職場で虐められたりとかはしてへんのやろ?」
「うん。それはないと思う。ただなぁ、あれからあの子のロッカーに影が出るねん」
「影? 何それ?」
「皆見てんねんけどな、あの子の使ってた更衣室のロッカーに、黒い影が映るねん。だからそれ見るたんびに皆、あの子のこと考えて辛いねん……」
「怖がる人がいたり、お祓いしよう、とかならないの?」
「別に……」

命を預かる方々は、ロッカーに映る影ぐらいでは誰も関心を示さないようです、とAさんは話を締めくくった。

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