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【怪談実話118】或るお盆の日の出来事

女性Tさんから、メールで頂いた体験談である。

・・・

お盆真っ只中の暑い日、私(当時二十歳ぐらい)は両親と3人で、亡くなった祖父と妹のお墓参りへ行くことになってました。

「お線香やお供え物、お花等を買いに行く」と言う父と母に「悪いけど、その間だけ少し寝かせて」と頼み、仮眠を取ろうとしていました。

当時、私の部屋は玄関を入って直ぐの真横にあり、暑かったので部屋のドアと窓を全開にして風通しを良くして、扇風機を点けて寝ようとしていました。

ドア側に頭を向けて布団に横になっていたのですが、買い物へ行く準備を済ませた両親と、それを見送る弟が玄関に立っていました。

両親に「帰ってきたら必ず起こしてね!」と釘を刺し、私は目を瞑りました。

出て行く両親の姿を見送っていた弟が何も言わず、ただ無言でずっとドアのところに立っている……ような気配を感じましたが、特に気にもせず眠ろうとしていました。

でも、ずっとそこに立っている弟。

弟は普段から少し不思議な言動を面白半分で私にしてきていたので「またいつもの変な遊びが始まった」と思い、あえて無視を続けていました。

数分立ってもその気配は微動だにせず、そのしつこさに思わず「ふふっ」っと笑ってしまい、「いつまでそこに立ってるの?」と笑いながらドアの方へ目をやると、そこには弟どころか誰も居らず……。

完全に弟が立っていると思い込んでいた私は、一瞬「えっ……?」「あれ…っ?」と不思議に思いましたが、そんなことより、少しでも眠らなければ!と、瞼を閉じて、再び眠る体勢に。

すると、さっきまで感じていた気配が、ほんの少し私の方へと近付いてきている……ような感覚があり、目を開けてもう一度確認しました。

でもやっぱり、そこには誰も居ない。

「何なんだろう……」とは思いましたが、怖い、とか気持ち悪い、といった感情は全く無く、それより(もう何も気にせず、とにかく眠ろう)と再び瞼を閉じた時でした。

寝転んでいる私の頭のところで、両脚をガニ股に開き、しゃがんでいる祖父 の姿が見えました。正確に表現すると、“頭で見えた”という感じですが……。どう説明すれば伝わりやすいのか分かりませんが、“頭の中で、周りの景色が見える”という表現が一番近いです。

祖父の気配を感じたまま、私は瞼を開けることもなく、ただそこにしゃがんでいる祖父を見ていました。祖父もずっと、その場から動かずに、少し微笑むような優しい顔で私を眺めているように思いました。

と、その時、祖父の手がそっと、私の頭を「よしよし」とゆっくり撫でてくれたのです。

最初はびっくりして、思わず体もビクッ……! となりましたが、その手で3回、優しく、ゆっくりまるで新生児の頭を撫でるかのように「よしよし、よしよし」と撫でてくれました。

私は祖父に撫でられながら、「じいちゃん、あとでお墓まで会いに行くから待っててね」と伝え、そのまま眠りにつきました。

両親が帰宅して起こされた私は、眠る前の出来事を2人に話しました。

「さっき、じいちゃんが会いに来てくれて、頭も撫でてくれた!」

話を聞いた母に「お盆だし、どっかの別のおじいちゃんじゃないの?」と鼻で笑われたので、私は続けて「青の細かいチェック模様のシャツに、薄いベージュ系のズボンを履いてた!」と詳細を伝えました。

その途端、母が「んっ!?」という顔をして「その服着たじいちゃんの写真、どっかにあったかも……」と押入れの奥にしまい込んでいたアルバムを漁りだし、「あった! この服じゃないの」と私に見せてきました。

確かにその写真に写っていた祖父は、私が仮眠を取る直前に見た祖父と同じ服装でした。

「やっぱり、じいちゃんが会いに来てくれたんだ……」と目が少しウルッとしてしまいました。

祖父は私が4歳の頃に亡くなり、祖父との記憶も思い出せるものでたった2つしかありません。それでも、祖父からすれば初孫の私は、祖父の中でも何か特別な思いがあるのかな……と思ったりもしました。

座椅子に胡座をかいて座り、新聞を大きく広げ、スポーツ欄をチェックし、新聞以外に観るものは野球中継だった祖父。無口な人で、笑った顔すらも覚えていませんが、頭を撫でてくれている時の祖父の顔は、本当に優しくニッコリと微笑んでいました。

その後、お墓参りに行った際に「じいちゃん、さっきはありがとう」と、手を合わせ、お礼を伝えました。

余談ですが、このお墓参りの後、「お腹空いたね」ってことでトンカツ屋に行った時の話です。

両親と私の3人でお店に入り、店員さんに席へ誘導された時、「お冷は4つで宜しいですか?」と聞かれ、一同「……んっ? 4つ?」となり、「いえ、3つで大丈夫です」と頼みました。

店員さんが厨房へ戻った後、
「4つってどういうことだろうね」
「もしかしたら、じいちゃんついて来たのかもね」
なんて皆で笑い合っていました。

そこへ店員さんがお冷を持って来てくれたのですが……グラスが4つ。
断ったはずの1人分のお冷が何故か追加されていて、4人分のお冷が用意されてしまいました。

両親も私も、苦笑い。
店員さんが「あれっ!? すみません!」とお冷をひとつ下げようとしましたが、「大丈夫です、そのまま置いておいてください」とお願いし、私達はご飯を食べました。

食べ終わって車に戻り、父が「じいさん、そんなにカツが食べたかったのかな?」と一言。「かもしれないね」と笑う私。

以後、毎年命日には祖母の家にある祖父のお仏壇にカツをお供えしようと決意しました。

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