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【取材した怪談話151】八王子城跡/たっちゃん池(東京)

「夜景を見に行こう、って彼氏がドライブに誘ってきたんで付いていったんですが、到着した場所が心スポ(心霊スポット)だったんです」という、玲奈さんの体験談。その心霊スポットとは、東京都八王子市に位置する八王子城の城跡だ。

【八王子城】
武蔵国(東京都八王子市)に存在していた山城。北条氏の本城である小田原城の支城で、関東西部に位置する軍事上の拠点であった。1590年、豊臣秀吉の軍に加勢した前田利家らの軍勢に小田原征伐の一環として攻め込まれ、陥落した(八王子城合戦)。
落城間際、城内の婦女子らは自ら死を選び、敷地内の滝に身を投げた。その滝から流れる川は、三日三晩にわたって赤く染まったという。落城後、新領主となった徳川家康により廃城とされた(現場の写真、フリー画像より)。

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城跡を登っていくと夜景が見渡せるため、嘘は言っていないというのが彼氏の主張である。城跡の見学者専用駐車場に、彼氏は車を停めた。時刻は夜三時ごろだ。二人とも車外に出て、城跡の方に向かって駐車場内を歩いている時だった。

がしゃり、がしゃり、がしゃり、がしゃり……。

「甲冑を着た人間が歩く音が聞こえてきたんです」

玲奈さんが足を止めると、ほぼ同時に彼氏も立ち止まった。彼氏と顔を見合わせる。彼の表情も強張っている。甲冑音が聞こえているようだ。互いに無言で静止して、耳をそばだてる。

甲冑音は、ひとり分の足音。足音と思われるが、遠ざかるわけでもなく、近づいてくるわけでもない。一定の音量のままだ。

城跡に行かないほうがいいのでは……。
引き返すことを打診しようと思った矢先、彼は無言で顎を車の方向に向けた。そして、できるだけ物音を立てないようにそろりと歩いて車に戻り、逃げるように城跡を後にした。

その後、車で橋(詳細な場所は不明)を渡っているとき、助手席に座っていた玲奈さんはふとサイドミラーに目を向けた。

「ミラーに、量産型貞子(『リング』の貞子のような、白い着物の髪の長い女という意味)が映りこんでました。橋の歩道に立ってたような気がしました。見てはいけないものを見たような感じがしました」

空が白み始めていた時刻だ。
見間違いかなと思って彼氏の方を向くと、彼氏も玲奈さんの方を見ている。彼は口には出さないが、(今の見た?)という同意を求めるような表情を浮かべていた。彼氏もサイドミラーで視たかどうか分からないが、どうやら同じ女を認識したようだった。女のことは口に出してはいけないような気がしたため、話題にしなかった。

「で、こんなことがあったにもかかわらず、懲りずにそのまま別の心スポに行ったんです」

玲奈さんらが次に向かった心霊スポットは、<たっちゃん池>と呼ばれる池だった。

【たっちゃん池】
東京都東村山市の狭山公園内に位置する溜め池。別称、宅部池。サッカーフィールドの半分ほどの広さがある。「たっちゃん」という名称は、大正14年にこの池で溺死した男児の名前と云われる。アニメ『となりのトトロ』に登場する『神池』のモデルとされる(現場の写真、フリー画像より)。

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時刻は朝五時ごろ。公園敷地内の駐車場に車を停め、池に続く長い長い遊歩道をふたりで歩いていた。車一台分ほどの幅の舗装道で、両側には樹木が連立している。
ふたりで並んで歩いていると、彼氏が頻繁に後ろを振り向く。

「どうしたの」
「いや、さっきからパチンパチンって指を鳴らす音が聞こえるんだけど。後ろから」

そのフィンガースナップ音は彼氏にのみ聞こえるようで、玲奈さんには全く聞こえなかった。振り返っても、後ろには誰もいない。早朝ゆえに直線の遊歩道の見通しは良く、もし人が居ればすぐに分かるはずだ。

それでもなお池に向かって歩いていると、今度は彼氏が軽く呻き、片腕で顔周りを振り払う動作をしだした。

「今度は何なの」
「顔に蜘蛛の巣が張り付いた感じがしたんだけどな……」

並んで歩いている玲奈さん自身にはそんな感触はなく、彼氏の顔周りを凝視してみても、蜘蛛の巣らしきものは見当たらない。

いつもなら、彼氏の冗談と割り切れたかもしれない。しかしこの日は、既に「甲冑の音」を聞き、「貞子のような女」を見ているため、彼氏の言動があながち嘘とも思えなかった。とはいえ、彼女には何も見えなく、何も感じないため、どうすることもできない。

そのまま遊歩道を進んで行くと、<たっちゃん池>が視界に入った。早朝だったこともあり、禍々しさは感じられない。池の周囲を歩いて回ってみたものの、特に何事も起こらなかった。

・・・

翌日の昼。
玲奈さんは、バイトの休憩時間に昼食を摂るため最寄りのファミリーレストランに歩いて向かった。そのレストランの入口は二階にあり、階段を登って入口まで行った。しかし、その日はあいにく休業日だった。

「しょうがないから階段を降りて戻ろうとしたんですが、足を滑らせて転んじゃって……左の足首を捻挫してしまいました」

痛む左足を引き摺ってどうにかバイト先に戻った後、タクシーを呼んでもらって病院に向かうことにした。患部は腫れており、暗紫色を呈していた。

彼女はタクシーの後部座席に乗り、病院に向かった。痛みを抱えながら意気消沈していた時、携帯電話が鳴った。彼氏からだ。彼氏もその日はバイトのはずだった。開口一番、こう告げられる。

「お前の左足に、男の子の霊が憑いてるって」

彼氏によれば、彼氏のバイト先の先輩がいわゆる「視える人」で、彼女と心霊スポットに行ったことも、そもそも彼女と会ったことすら話していないにもかかわらず、そう指摘してきたそうだ。

彼氏に捻挫の件は伝えていない。
つい先刻その左足を捻挫した玲奈さんは、ドキリとした。

「その後どうされたんですか」と私が問うと「そのバイト先の視える人が、その場で祓ってくれたみたいです。遠隔で」と彼女は答えた。

それ以降、玲奈さんにも彼氏にも異変はなかったという。

・・・

〈まとめ〉
それぞれが体験した現象をまとめておく。

玲奈さん:甲冑音、貞子のような女、捻挫(男児の霊?)
彼氏:甲冑音、貞子のような女、指を鳴らす音、蜘蛛の巣

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