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【怪談実話97】一反木綿

女性Aさんが20歳の時の話。

当時彼女は、福岡県のとある団地のマンション1階に住んでいた。その団地は、T字路の突き当りの正面に位置している。1階のため、夜に道路の正面から車が進入すると、その車のヘッドライトの光が部屋に差し込んでくる。

ある夏の夜、換気のために窓を10cmほど開けており、窓に合わせてカーテンの端部も開けていた。

夕食後に台所でコーヒーを淹れていると、カーテンの向こうから、やたらと眩しい光が見えてきた。車のライトかと思ったが、ライトの位置にしては高すぎて違和感を覚えた。Aさんは、急いでカーテンと窓をがばっと開けた。

「眩しいぐらいに真っ白で、オタマジャクシのような形をした何かが、右に左に、とゆっくり動き回り、ふわふわと揺れるようにベランダの上部を飛んでいました」

直径20cmほどの円形の本体部と、本体部から突出した5〜6cmほどの尾部からなる浮遊体。立体的な球状ではなく、ぺらぺらの平面状だった。

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(Aさんに描いていただいたイラスト)

一反木綿だ!
Aさんはそう思った。テレビを観ていた母親や弟にも見せたくて急いで呼んだが、彼女の声に反応したのか、その〈一反木綿らしきモノ〉は、ひゅうッと上に昇って行って見えなくなった。

母親や弟には「見間違いじゃないの?」と少し鼻で笑うように馬鹿にされた。

・・・

翌日、同じ棟の5階に住む幼馴染の女性Bさんと話す機会があった。

「昨日の夜、うちのベランダで一反木綿らしきモノを見てさ……」

Aさんが打ち明けると、Bさんは驚いた表情で「私も昨日の夜、同じモノ見たよっ!」と言い出した。

Bさんによれば、窓を全開で開け、ひとりでテレビを観ていた時に〈それ〉が視界に入り、最初はタオルが飛んでいると思ったそうだ。だが、風も吹いてないのにタオルが飛ぶのか、と不審に思い飛翔物体を凝視したところ、真っ白で、尻尾があるのが見えたという。Aさんが見たのとほぼ同時刻だった。

その物体の形状を詳しく話せば話すほど、AさんとBさんが見たモノが一致していき、ふたりで興奮しながら語り合った。

AさんもBさんも、誰にも信じてもらえないと思っていただけに、驚きと興奮と妙な感動があったそうだ。彼女らの間では、「あれは形は丸かったけど、一反木綿だよね!」という結論に至った。

ちなみにAさんは、母親と弟を呼ぶために大声を出してしまったために、<一反木綿>を驚かせてしまい、逃げて上昇してしまったと解釈している。

「もう一度会えるなら、次は驚かさないように気を付けたいと思っています」

そうAさんは決意表明した。

・・・

一反木綿:大隅半島にある鹿児島県肝属郡高山町でいう妖怪。約一反(長さ約10.6メートル、幅約30センチメートル)ほどの布がひらひらと飛び、夜間に人を襲うという(『日本妖怪大事典』(角川文庫)より)。

Aさんらが目撃したものは、全長約25cmの浮遊物体だった。すなわち、<0.025反木綿>ということになる。

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